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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

「戻り川心中」が、たまらん

連城三紀彦の代表作、『戻り川心中』を勧められて読んでみた。 

いや、これはすごい。

推理小説、ミステリと呼ばれるジャンルはどちらかというと苦手なの

だが、これには感嘆した。

「ジャンルに貴賤なし」を地でいく、評判どおりの名作だと断言しよう。

本好きのかた、お勧めだよー。  

戻り川心中 (ハルキ文庫―連城三紀彦傑作推理コレクション)

戻り川心中 (ハルキ文庫―連城三紀彦傑作推理コレクション)

 

 『戻り川心中』は、「藤の香」「菊の塵」「桔梗の宿」「桐の柩」

「白蓮の寺」「戻り川心中」「花緋文字」「夕萩心中」の、いずれも花を

モチーフにした「花葬シリーズ」全8編からなる、ミステリー小説集。

作者は1981年、本作で日本推理作家協会賞を受賞し、同時に

直木賞候補にもなっている。

(残念ながら選外。直木賞は後年、『恋文』で受賞 )

 

本を読むのは、人より圧倒的に早いと自負しているが、

この短編集は一編を読み終わるごとにフーッと嘆息。

話に引き込まれてしまい、頭を切り替えて次の話に入れない、

という経験を久々にした。

「一日一編」で、読了まで一週間を要した短編集はいつ以来か。

 

まず文章がすごい。

私はいわゆる「美文」が鼻につく性質で、簡潔平明な文章を好むのだが、

日本語の豊かさを堪能した。

例えば表題作の「戻り川心中」では、大正の天才歌人、苑田岳葉が

主人公的な役回りなのだが、その冒頭からの描写が以下。

苑田が画家なら、好んで涸れた花を描き、その朽ちた花に、

盛りの花以上の美しさを感じさせただろうと評する者があるが、

実際、苑田の人生は、闇の時代から闇の時代へと架けられた

短いかけ橋にも似た、大正という暗い歴史の一頁に、朽ちるために

咲いた徒花を想わせる。  

作中、実際に苑田岳葉の作として「劇中歌」がいくつか登場するのだが、

その出来栄えにとどまらず、この描写。

架空の天才歌人の作風を、絵画を以って存分に喩えている。

なんと巧みな描写だろうか、と読み返してしばし陶然。

 

プロットとしては、ある程度まで読者の中で話ができあがったところで、

そこから一気にその話の「意味」をひっくり返す、というのが基本的パターン。

謎解きよりも、「あっ!そうだったのか!」と読者に人間の深淵というか、

奥底にある暗い感情を見せつけた上で、積み重ねた事象を鮮やかに

別の側面から作者が解釈していく、どんでん返しの切れ味が醍醐味。

 

ネタバレはやめておくが、ある程度の小説好きなら、ジャンルを超えて

愉しめるはず。

作者は別に早世した訳ではないが、

「これを書き上げる為に、連城氏は相当命を削ったな」と思わせる、

凄みのある作品揃いの一冊だった。

                                                                                     以上  ふにやんま