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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『ブラックジャック創作秘話』~手塚治虫の仕事場から~

ブラックジャックと言えば、一昨日から紹介させて貰っている

『アメリカ下層教育現場』林 壮一著で、印象的なシーンがありました。

3回目の「JAPANESE CULTURE」の授業で、作者は「ブラックジャックのアニメを教材に選びます。

述べるまでもないが、日本漫画界第一人者の代表作でエンターテインメントとしても奥が深い。そのうえ、ヒューマニズムもふんだんに盛り込まれている。アメリカでも、何度か吹き替え版が放送されていた。

(中略)

『浦島太郎』を題材とした授業で形になったのだから、『ブラックジャック』なら、さらに効果があるだろうという仄かな自信があった。 

「今日は『ブラックジャック』というアニメを観せる。知っている人?」

どうしたものか、生徒たちから反応がない。漫画が好きだというティオさえキョトンとしている。

私は続けた。

「主人公は、自分で自分の身体にメスを入れるほどの天才外科医だ。でも、何故か無免許で医師を続けている。治癒不可能とされる難病でも、彼は治してしまう。その見返りとして多額の報酬を請求する。 

しかし、『浦島太郎』よりも興味を惹くに違いないという私の目論見は、瞬く間に崩れる。生徒たちは10分と画面に目を向けなかった。

(中略)

「おい、どうした?日本のアニメが見たかったんじゃないのか」

と質すと、

ドラゴンボールZがいい」

「幽☆幽☆白書を観せてくれ」

 子供たちの集中力が持続しない事を伝えるパートであり、この後、作者は折り紙を使って子供たちの関心を呼び起こすのですが、私は違うことを考えました。

ブラック・ジャック』という選定が悪かったのでは?と。

 アメリカの医療保険はバカ高い上に、保険で治療費の全てをカバーできる訳ではないと聞いています。

(レントゲン2枚で500ドル、盲腸の手術で2万ドル弱と、林氏の別の著作『オバマも救えないアメリカ』にあります)

オバマも救えないアメリカ (新潮新書)

オバマが合衆国の医療保険制度の改革を訴え、「国民皆保険制度」への期待が、大統領選での集票につながった事は否定できないでしょう。

そんなアメリカの、経済的な下層家庭に生まれた子供たちにとって、ブラックジャックはアメリカの医療制度そのものに見えたのではないでしょうか?

「法外な金を取って、金持ちだけを治療する」

当たり前じゃん、それが医者だろう!と。

貧乏人は診てもくれない、医者は敵だと。

 

勿論、時間をかけてコミックを読み込んでいけば、彼らもブラックジャック の素晴らしさを理解出来たでしょう。

ただミドルティーンの子供たちにとって「医者のヒーロー」という設定は、第一印象からして受け入れ難いものではなかったのでしょうか?

 本来、過去ブログへ盛り込むべき内容が長くなりました。

今日の本題にいきます。

 

ブラックジャック創作秘話』 ~手塚治虫の仕事場から~ 

2011年初刷 [原作] 宮崎 克     [漫画] 吉本 浩二 全5巻(秋田書店) 

ブラック・ジャック創作秘話?手?治虫の仕事場から? (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)
 

手塚治虫の偉大さについては、今さら語るまでもないでしょう。

あの立川談志をして、

「天才とは作品の質だけでなく、量も桁違いでなければならない。天才ってえのは、多作じゃないといけねえんだ。その体でいくと、俺に言わせりゃ天才と呼べるのは、レオナルド・ダ・ヴィンチ手塚治虫だけだね」

何度も語らしめた日本漫画界の神様。

 

その神様の創作の実態を、当時 手塚治虫に関わった人達へのインタビュを基に綴ったのがこの

ブラックジャック創作秘話』

史実的な価値も十分で、良い漫画が出たなと嬉しく思うのですが、断言しましょう。手塚治虫の凄さが、絶対にあなたの想像以上です。

クリエイティブな仕事をする人だけでなく、「プロ」を目指す全てのかたに読んで欲しい。

いちサラリーマンの私など、本当に縮みあがりましたからね。

 是非とも買って読んで頂きたいので、一つだけエピソードを紹介します。

3巻ー第15話「手塚治虫と6人の孫悟空(後編)」から。

1981年、手塚プロダクションに中国版の鉄腕アトム、『鉄臀阿童木』(ティビアトンム)が届きます。

1980年に、中国で初めて日本製アニメ『鉄腕アトム』が放送され、子供たちの間で大ブームに。

その人気を受けての単行本だったのですが、当然、無許可。

日本から見れば「海賊版」というやつですが、なにぶん日本の著作権が、法的に中国には及ばなかった頃の話。

中国側の出版社にしてみれば、政府の許可を得た合法出版物ですが、律儀にも日本に見本を送ってくれたようなんですね。

まあ、そこだけ見れば良心的と言える態度でしょう。

この時の手塚治虫、どうしたと思います?

そりゃあもう、怒った。

「そりゃあそうだよな、作品には著作権がある。著作権への理解が無さ過ぎるわ。事前承諾だって、使用料だって、交渉すべき点は・・・」

と思いますよね?思いますでしょ?

違うんです。

そんな些末(手塚氏にとってですよ)なことではありません。

手塚治虫が怒ったのは、

「絵がひどいんです!!」

どっひゃー。今、ひっくり返りそうになりませんでした?

手塚治虫は、異なる判型を無理やりあわせる為、中国側が勝手に原作を改編し、絵を描き直したこと、そしてその出来が許せなかったんです。

そして、手塚治虫は言い出します。

「私が原稿を直します!」 

何しろ著作権がないわけですから、タダ働きになるのですが、

「おもしろくないんですよ、こんな絵じゃ!!

ちゃんとした絵で、中国の人にも楽しんでもらわないと!! 」

そして『鉄腕アトム』の次に刊行予定の『ジャングル大帝』は、本当に手塚プロダクションによって原稿を修正され、中国の出版社に送られます。

 

もう1回言いますね。

1円も原稿料、印税は入らないんですよ。

タテ長、ヨコ長を無理矢理に変形したコマを直し、日本語の書き文字を消し、背景を書き足し・・・。

しかも当時の手塚プロダクションに、時間や金銭的余裕なんて無いわけです。

手塚治虫、すごすぎる・・・

 

他にも「漫画の神様」手塚治虫の鬼気迫るエピソード、胸を打つ逸話が沢山あるのですが、それらの殆どは、このブラックジャック創作秘話』が無ければ世に出ず、埋もれていたかも知れない訳で。

そういった面でも、評価されて然るべきだと思います。

是非、ご一読を。

以上 ふにやんま