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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか』

読書 ビジネス

『なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか』

ジュリア・カジェ(徳間書店)2015年6月初版  

なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか

なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか

 

 

メディアやマスコミに関心のあるかたにはお

薦めできる本ですが、最初に言っておきます。

この本、邦訳タイトルと中身が違います。

原題は『Sauver les medias』

フランス語ですが、これは

『メディアを救え』という意味でしょう。

「デジタルメディアを使った、権力による

大衆コントロールの赤裸々な実態!」

みたいなセンセーショナルな内容を期待

すると、肩透かしに遭います。

徳間書店さん、売らんかなの効いた、

少しばかりあこぎなタイトルにしましたね。

 

本書は

「権力から中立性を保ちながら、民主主義的な

情報発信を、永続的に発信可能とするメディア

組織のあり方」を論じたものです。

かなり読者が限られる種類の本ですので、

お含みおきください。

 

ちなみに著者のご主人は『21世紀の資本』

書いた経済学者、トマ・ピケティ氏。

序文を寄せられていますが、いやはや。

すごいご夫婦もあったものです。

今日ほど情報のつくり手の多い時代はないだろう。

(中略)

それなのに、メディアはかつてないほど弱体化している。

アメリカの日刊紙全体の年間販売額は、他社が制作したコンテンツの分類を業務としている「グーグル」の半分に過ぎない。

実際、アメリカの多くの群では、もはや地方紙が1紙も存在していない。現在も発行を続けているシカゴ・トリビューン紙とロサンゼルス・タイムズ紙は2008年に発行元の経営破たんを経験した。そして同じ年、アメリカの新聞業界における失業者数は、じつに1万5000人を超えてしまった。

このような危機的状況に陥っているのは、新聞・雑誌だけではない。

この危機が決定的になったのはここ数年のことだ。

以来、従来型のメディアは脅威にさらされ、窮地に陥っている。なぜなら、いまや同じ情報が引き継がれ、転載され、コピーされるからでさる。こうして、苦労してつくり上げ世に送り出すのにそれなりのコストをかけた情報が、一円も支払われることなく転載されてしまう。

経済的観点で見ると、情報の生産は、再生産コストに比べてきわめて高い固定コストがかかってしまうという特徴がある。

ある媒体で働いているジャーナリストの数と生み出される情報の量(さらには、情報の質)には強い相関関係がある

本書が挑もうとしている問題の核心に入ろう。すなわち、新しいガバナンスと資金調達モデルの提案である。

本書では21世紀に適合した「メディア企業の新しいモデル」を紹介したい。特に「非営利のメディア会社」という形態を提案する。これは財団と株式会社の中間である。「株式財団」とでも呼ぼうか。

このようなモデルは自己資本を安定化させて投資を持続させていくので、メディアの質は保証されるだろう。そうすれば、メディアはもはや「道楽」に事欠く企業家の遊び場にはならないし、ひと儲けをたくらむ投機家のための投資対象になることもない。 

ハーバード大学プリンストン大学、イェール大学といった世界最大級の大学では、資本に投入される寄付金の額はじつに300億ドル以上。

(中略)

あくまで非営利の基金という形をとっている。

株式会社の形をとり、販売と広告によって100パーセント自己資金でまかなうモデルが、21世紀のメディアに合っていると考える理由などどこにもないのだ。

(中略)

実際に、株式会社というモデルは、今日メディアが直面している試練にはとても対応できそうにない。 

イーベイの創業者ピエール・オミダイアはおよそ2億5000万ドルを投じて、ファースト・ルック・メディアを立ち上げた。

(中略)

アメリカの投資家でありレッドソックスオーナーのでもあるジョン・ヘンリーは、ボストン・グローブ紙を7000万ドルで買収した。

(中略)

アマゾンの創業者でもありCEOでもあるジェフ・ベソスは、2013年10月、アメリカジャーナリズムの金字塔ともいうべきワシントン・ポスト紙を2億5000万ドルで買収した。300億ドル近い個人資産を有するベゾスにとってはわずかな金額だろう。

情報を市場の手にゆだねるな 

政治の世界と同様に、財力のある個人や企業グループによってメディアに投入される巨額の資金は、民主主義の適正な働きを脆弱化してしまう。 民主主義はその大部分が、質の高い独立した情報をできるだけ多く提供することに支えられているからだ。 

定期的にそれぞれが分担金を支払う大きな読者組合か、あるいはアメリカに多数みられるような一種の財団が、利害を離れて新聞という財を所有することを考えられないだろうか? 

財団という形態が、メディアのガバナンスに関する問題をすべて解決できるわけではないということがわかってくる。

(中略)

株式会社には対抗権力は存在しない。というのも、資本を所有する者が議決権を握っているからだ。このことは問題である。なぜなら、その場合、質の高い独立した情報を生み出すためにメディアを利用するのではなく、むしろ、自らの経済的あるいは政治的思惑のためにメディアを利用することができるからだ。   

 何より難しいのは、財政面だけの論理(1株1票という制限を設けず、最終的には金権体制へ偏向していく危険性がある)と、完全に民主的な論理(SCOPの意味における民主的論理。すなわち、保有する資本の割合や投資額にかかわらず、従業員1人につき1票)とのちょうど中間を見つけることである。

(中略) 

つまり、権力が少数の人々によって独占されず、従業員、読者、その他のクラウドファンディングの出資者が発言権を持つ一方で、多額な出資をした人にはある程度まではより多くの議決権をあ与えるような会社の形態である。

本書で提案するメディア会社はハイブリッドなモデルだ。部分的には、商業活動と非営利活を両立させている国際的で大規模な大学から着想を得ている。しかし、それだけではない。このモデルでは、資本を凍結してメディアの財政を安定させると同時に、拘束力のある定款を採用することによって外侮投資家の決定権に制限を設けることができるのだ。

なかなか面白そうでしょう。

本文では豊富に例証を挙げながら、著者はメディアの販売と広告の関係や、助成金のような公的援助についても考察しており、なかなか読み応えのある一冊です。

「メディアのあるべき形態」という全く新しい視点での、過去に類書の無いジャンルの本だという点でも高く評価されてしかるべきでしょう。

書評を新聞に寄せたピケティが、「身内びいき」だと批判されて、

書いてあることがすばらしいので取り上げた。内容をきちんと見ずに、私の妻だというプライベートな面から批判するのはおかしい

と反論した(訳者あとがきから)のも、もっともだと頷ける内容です。

 

訳者の山本知子氏があとがきで書いているように、

・日本では新聞の宅配制度により、海外ほど購読者離れが大きくない

・日本の新聞社は非上場のため、海外のような新聞社や雑誌社の派手な買収劇が見られない

といった制度面の差から、若干ピンとこない部分もあります。(データはフランス、ドイツ、アメリカが中心。日本は1度も出てこない)

ですが山本氏が、

テレビ局では、制作費がかかる番組を減らすために報道番組の枠が増えているにもかかわらず、記者数は変わらないため同じ情報を薄めて使わざるをえないという話も聞いた。日本でもメディアの危機は他人事ではないのである。

と言うように、紙の新聞やテレビニュースといった既存メディアが発信する情報の絶対量の減少、そして質的劣化の可能性が危惧される現状は同じでしょう。

弱体化した既存メディアが、結局は権力(公的支配と私的資本の両方)に隷属したものに成り下がる状態、著者の言う非「民主主義的」な状態が将来の行き着く姿だとしたら、図らずも冒頭で茶々を入れた邦訳タイトルは、的を射ていたことになります。

なんだ深いじゃないですか徳間書店さん。

すいませんでした。

         以上 ふにやんま