読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『0ベース思考-どんな難問もシンプルに解決できる-』

読書 ビジネス

 『0ベース思考-どんな難問もシンプルに解決できる-』(2015)

スティーヴン・レヴィット,スティーヴン・ダブナー

0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる

0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる

 

 『ヤバい経済学』で世界的なヒットをとばした、気鋭の経済学者とジャーナリストのコンビによる新作。ちなみに原題は Think Like a Freak.で、フリーク「常識の枠に収まらない人、既存の慣習にとらわれない人」と定義されています。

ジャンルで言うと「思考法」の本ですが、大仰なタイトルとは異なり様々な事例を引いて「こんな見方も出来るよね」と解説してくれる読みやすい本です。

我が家の中学生の子供も、面白いと言ってました。

 知的好奇心を刺激するエンタメ本としては十分に楽しめます。

ポール・スローンウミガメのスープポール・スローン 

の仲間みたいな本ですが、レベルは本著のほうがはるかに高め。

ポール・スローンのウミガメのスープ

ポール・スローンのウミガメのスープ

 

ウミガメのスープ』には、「これってなぞなぞの本やん!」となかなか本質を突いた評価をしていた子供達も、本書には素直に感心していました。面白くて為になる。良書とはこういう本のことを言うのでしょう。

 

〇「PKを蹴る方向」も合理的に決められる

私もキーパーをやっていましたが、サッカーのPKは蹴る方が圧倒的に有利です。ゴールまでの距離は10メートル。プロだとボールの速さは時速130㎞ぐらい出ますから、キーパーがキックの方向を見極めてから反応していたら、絶対に間に合いません。キックが左右どちらに来るかを予め読んで、蹴ると同時に跳ばないと理論的に止められないのです。もちろん、現実ではキッカーがゴールの枠を外したりすることはありますが。

かたや蹴る方にしてみれば、仮にキーパーの左右の読みが当たったとしても、手が届かないゴールポストぎりぎりに蹴り込むのがベスト。サイドネットを直撃するようなコースだと完璧です。しかしこのギリギリ加減が問題で、ポストに当たったりゴールを逸れたりしたら元も子もありません。

ここで第三の選択肢が浮上します。左右いずれでもない方向。真ん中です。

データ重視の近代サッカーでは、警戒されるほど同じコース、特に真ん中にばかり蹴るキッカーはさすがにいません。なのでキーパーが真ん中へのキックに備えて、PKで動かない可能性はかなり低いです。実際にど真ん中に蹴り込んで、PKが決まったシーンを皆さん見たことがあるでしょう。あれは真ん中にたまに蹴るから有効なわけで、キーパーにしたらどうしようもないんですね。

データ的にもサイドを狙うより、真ん中を狙った方が7%ほど成功率が高いそうです。ただそのPKが、ワールドカップの決勝戦、試合を決める時間帯だったらどうでしょう?

万が一、キーパーが動かなくて真正面でガッチリとキャッチしたら?キッカーが浴びる罵声とカッコ悪さは容易に想像がつきます。非難はサイドを狙って外した時の比ではないでしょう。

この「下手すると恥をかくようなことは避けて、自分の体面を守る」っていう、利己的なインセンティブに従うなら、あなたはきっとサイドに蹴り込むだろう。

逆に、利他的なインセンティブに従って、恥をかく危険を冒してでも国のために勝ちに行くなら、真ん中にシュートするだろう。

ときとして人生には、ど真ん中を狙うのがいちばん果敢、ってこともあるのだ。 

〇なぜ、「突然変異」的な記録が出たのか?

日本の大学生、後年「コービー」として全米に知られることになる小林尊(たける)は、いかにして早食い界のスーパーボウルネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」の記録を大幅に塗り替えたか?

それまでの記録は12分間で25本と8分の1。かたやコービーが初出場時に叩き出した記録はなんと50本!ほぼ倍増の脅威のスコアは如何にして生まれたのか。知りたいでしょう?ネタバレになるので、「ソロモン・メソッド」を始めとした具体的な方法は是非本書で。

「ゲームのルールを書き換える」

あの胸がスカッとするような小林尊の成功を、ホットドッグの早食い競争以外の、もっと有意義なことに応用できないだろうか?できるはずだ。フリークみたいに考えれば、彼のやり方から広く応用できそうな教訓を、少なくとも2つ引き出せる。

1つは、問題を解決する方法全般に関わる教訓だ。コバヤシは解決しようと問題を、自分なりにとらえ直した。ライバルたちはどんな問いを立てていただろう?

ひと言でいうと、「ホットドッグをもっとたくさん食べるにはどうする?」だ。

コバヤシはちがう問いを立てた。「ホットドッグを食べやすくするにはどうしたらいい?」この問いをもとに実験を重ね、フィードバックを収集して、ついにはゲームのルールを書き換えることができた。問題をゼロベースでとらえ直したからこそ、新しい解決策を見つけられたのだ。 

 コバヤシの成功から学べる2つめの教訓は、ぼくたちが「受け入れる限界」「受け入れようとしない限界」と関係がある。(中略)

コバヤシが最初の年に25本を一気に突破できたのは、それまでの記録を受け入れなかったからだ。

思考法の本らしく、なんとかまとめなきゃ、みたいな無理矢理感を感じますが、そんな感じの本です。学者さんの本ですので、そこを割り切ると具合が悪いのでしょう。察してあげましょう。

やはり日本人の活躍が突然出てくると嬉しいですね。俄然親しみを覚えます。「国際戦略ってのはこうやるんだ」みたいな意図はあったのでしょうか。

 

〇なぜ、商人は奴隷の顔をなめるのか?

アメリカで白人と黒人の死因のトップを占める心臓病が、黒人のほうがずっと罹患率が高いのは何故か?

アフリカの奴隷商人達に奴隷の顔をなめる習慣があったことから、奴隷貿易の選別のしくみが、アフリカ系アメリカ人の寿命が短いことの根本原因として今も残っているのだという、驚くべき考察を組み立ててみせたハーバードの経済学者の説を紹介。 

 

〇おやつに「m&m’sの茶色」を入れるな

1980年代を代表するロックバンド、ヴァン・ヘイレンはバンドツアーの契約書に、53ページもの付帯条項を付けており、その中にこの奇妙な要求事項があったと。

何だそれは?ナッツやチップスに関する注文は別にうるさくなかったし、夕食のメニューだって普通だ。なのにこの茶色の m&m’sへのこだわりは何なんだ?バンドの誰かが嫌な経験をしたとか?ヴァン・ヘイレンはドSで、気の毒なケータリング業者にm&m’sを手でより分けさせることに無上の悦びを感じていたとか?

m&m’s条項がマスコミにリークされると、よくあるロックスターの悪ふざけと見なされ、バンドが「立場をかさに着て、やりたい放題やっていると思われた」とのちにロス自身が語っている。でも「じつはそんなことじゃなかったんだ」

すごく興味を惹かれません?

余談ですがこれだけの抜粋で、瞬時に茶色いm&m’sの意味合いを理解できる人もきっといるんでしょうね。凄いなー。そういうかたには本書は必要ないので念のため。

ほかにも見出しから引きますと、

〇口を割らなければ「神さま」に決めてもらえばいい

中世ヨーロッパでは何百年もの間、被告が有罪か無罪かを裁判所が判断できない場合、訴訟はカトリックの司祭に持ち込まれ、煮えたぎったお湯や湯気が立つほど熱した鉄棒を使った「神明裁判」(神判)が行われていました。腕を突っ込んだり素手で鉄棒を握ったりして、火傷をすれば有罪、何ともなければ無罪放免です。神は真実を知っているから、奇蹟を起こして濡れ衣を着せられた容疑者を救ってくださるという理屈ですね。この一見野蛮で、100%有罪且つ大火傷となりそうな方法に隠された合理性とは?

〇研修だけでやめるなら、2000ドルのボーナスを出そう

靴のECで有名なザッポスの新入社員研修のルールです。高い研修費用を注ぎ込んだ後の、決して低評価の新人だけが対象ではない退職勧告の意図は?

〇なぜ、詐欺師は「ナイジェリア出身」を名乗るのか?

「ナイジェリア詐欺」と呼ばれるほど、メールでの前払い詐欺は知れ渡っているのに、何故ナイジェリアの(国籍はほとんど違うでしょうが)詐欺師はしつこくナイジェリア出身を名乗り続けるのか?「自分は詐欺師です」と言っているようなものなのに?

〇ぼくたちが仕掛けた「生命保険詐欺」のトリック

複雑すぎて要約出来ません。すいません。実話なのに、よく出来たショートショートのような結末に驚愕です。

 

といったアッと言わせる事例、解釈が盛り沢山。

冒頭でも言いましたが、固いタイトルとダイヤモンド社という出版元で敬遠されがちな本だと思いますが、中味はとても面白いので是非是非。

        以上 ふにやんま