ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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酒呑みはこれを呑めもといこれを読め(上)

愛すべき酒呑み本の紹介です。

まずは「なぎら三部作」(勝手に命名)から。3冊の中から1冊だけ挙げろと言われたらこれですね。

『酒場漂流記』なぎら健壱  1983

東京酒場漂流記 (ちくま文庫)

東京酒場漂流記 (ちくま文庫)

 

いつの間にか30年以上前の本になってしまいました。なぎら氏も既に閉店となったお店が多いことを嘆いていましたが、ガイドブックとしての劣化を差し引いてもなお、昭和情緒とユーモアに溢れた酒場エッセイの傑作です。

ニコミの鍋にワニ潜む? 

深川森下町「山利喜」

アンクル・トリスたちの夜 

神田「トロイカ

牛のシャレコウベにバーボンを 

小村井「ビリー・ザ・キッド

仲足龍造栄養研究所の秘密メニュー 

新宿御苑「赤ちょうちん」

人生ー酒=0 

扇橋「大野屋」  等々。

目次から拾った見出しだけでも、酒呑みの心をくすぐるものがありませんか。

「今でも呑んでいると、この本のお店を順番に回っていますとか、地方から回りに来ましたとか、一緒になったお客さんに言われるんですよ」となぎら氏自身も言うように、酒呑みを深く魅了する一冊。散りばめられた、なぎら流のアバンギャルドなテイストが、この本をなかなか古くしないのかもしれません。

 

『夕べもここにいた!』

なぎら健壱の東京居酒屋〜  2007

夕べもここにいた!―なぎら健壱の東京居酒屋

夕べもここにいた!―なぎら健壱の東京居酒屋

 

サンデー毎日での2006年4月から1年間の連載を単行本化したものです。数えたら45店が紹介されていました。

基本構成は右半分がなぎら氏のエッセイ、左半分が大ぶりの写真数枚。

なぎら氏が旨そうに呑んでいるのと、周りのお客さんの様子がまたいいですね。いいお店には、いい顔で呑むお客さんが集まるのか。いい顔にしてくれるのか。

浅草 立ち飲み串揚げ 

『串あげ光家』(くしあげみつや)

(中略)

その点、「光家」は立ち飲み屋だからして長居はできない

嘘付け、いつも長居しているじゃないかですって?

何言ってるんですか、あたしが長居を決めたら、閉店までってことですよ。

いかにも呑み助のオヤジさんらしい、なぎら氏の啖呵がまた堪りません。 

 

『酒にまじわれば』なぎら健壱  2008

酒にまじわれば

酒にまじわれば

 

 

朝日新聞夕刊で、2006年から2008年まで連載されていたお笑い系コラム。こんな調子です。

オツな酎ハイ

その夜友人とふたりで、小岩の居酒屋にいた。何軒目の店だったかは記憶にないが、ハシゴ酒ということで、すでにかなりの酒が入っていた。

(中略)

しばしあって、目の前に酎ハイが運ばれてきた。我々は「カンパ~イ」とグラスをあわせ、酎ハイに口を付けた。

「おや?」

何となく変わった味がする。グラスを灯りにかざして見ると、色の方もなんとなく妙である。しかしこれは下町独特の、焼酎に梅か何かの合成エキスを入れた物であろうと、それ以上気に留めることなく我々はグラスを傾けた。

しばらくして友人が、「この酎ハイ、オツな味してるよな」とささやいた。

「この店のオリジナルなのかなぁ?」

「そうなんだろうな。でもこれ飲んでいると、ツマミが欲しくないんだよな」

(中略)

一杯目を飲み干し「お代わり」とおばちゃんに声をかけた。おばちゃんは「はい」と返事をして、厨房に消えていった。

しばらくあって、厨房からゲラゲラ笑う声が聞こえてきた。その声に振り向くと、おばちゃんが満面の笑顔で一升ビンを抱えて立っている。

「ああおかしい。お客さん、よくそれを飲みましたね。何も感じませんでした?」

「はぁ?」

オチまで引用するのは野暮ということで。連載コラムですから、一話一話が短くて読みやすい。持ち歩きながら拾い読みするのには、丁度よい本。

 

 

酒呑み本と言えば、なぎら三部作とは別の意味で外せないのが、

『今夜、すべてのバーで』中島らも 1991

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

 

氏の代表作の一つで、説明は不要でしょう。

実体験を下敷きにしているのは明らかですが、純粋なフィクションとして読んでもよく出来たストーリーです。

アルコール中毒という心身の荒廃を描きながらも悲惨にならず、ありがちな自己陶酔の嫌らしさを微塵も感じさせないところが中島らも氏の本骨頂。

空中浮遊しながら自分を見ているような透徹した文章。油断しながら読んでいると、アルコールでしか埋めることの出来ないヒトの心の穴を、ヒョイと目の前に突きつけてヒヤリとさせるテクニック。

書き出す前には模造紙をフルに使って、話の構成を練りに練りまくったという中島らも氏らしい1冊です。

 

【補足】

なぎら三部作。「3冊じゃ足りないだろう!」というお叱りの声もありそうですが、あくまでも私見で「酒場本」と認めた3冊ですのであしからず。

たとえば、

『酒場のたわごと』2014 .11月

酒場のたわごと

酒場のたわごと

 

いかにも酒場本らしい(らしく見えるようにした)表紙で、中身も充分に面白いのですが、「酒場本」ではありません。これは酒場の与太話の本で、酒場及び酒にまつわる話の本ではないので。

注)与太話は誉め言葉です。念のため。

 

酒呑みは細かくて面倒くさくて、おまけにしつこいんですっ。

なのでこれ、続きます!

                                    以上   ふにやんま