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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『日本人の働き方の9割がヤバい件について』 谷本真由美

読書 ビジネス 人生観

『日本人の働き方の9割がヤバい件について』谷本真由美(2015) 

日本人の働き方の9割がヤバい件について

日本人の働き方の9割がヤバい件について

 

@May_Romaこと谷本真由美氏の最新刊。

第1章「働き方」に悩みまくる日本のサラリーマン から。

2013年のビジネス書ベストセラーを見てみましょう(中略)

『伝え方が9割』『雑談力が上がる話し方 30秒でうちとける会話のルール』『いつやるか?今でしょ!今すぐできる45の自分改造術!』『人生はワンチャンス!「仕事」も「遊び」も楽しくなる65の方法』『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』には、書名に具体的な数字が入っています。

数字が入っていることで、読者は、「確実に効果が出るノウハウ」を、短期間に学べるような気がします。本にお金を払った分、払った分だけの効果を確実に得たいという、消費者マインドをうまく掴んでいます。

そこまで分かっている上での本書のタイトルで、

「9割がどうヤバいか」

「残り1割のヤバくない働き方はどうやって実現されているか」

について全く触れられていないところが憎い。いいボケです。

 

相変わらず芸達者な谷本氏ですが、内容にはおっ!と思わせる部分があります。

日本研究者が無視していること

それは、こういう研究が、日本の成功は日本独自の経営以外に、政策的要因や外部要因が原因になっていた、ということを無視してきたからです。

日本の成功は、当時の資源価値や国際政治、金融政策、特許技術の購入のしやすさ、新技術の導入、海外の最新技術や知識の導入、地道な品質改善運動、教育改革、さらに歴史的なタイミングなど、様々な要素が絡み合っていたから可能だっただけであり、「日本人の働き方」は成功要因の一つにすぎなかったのです。

この指摘のあと、中国吉林大学講師の張賢淳氏の論文「戦後日本経済の高度成長の要因について」から、「日本に固有な有利な歴史的条件」の引用が続きます。これがなかなかいいです。

・日本には戦前からの工業力があり、熟練労働者が存在した

・アメリカの政策により非軍事化されたために、重工業など平和的分野に資源を回すことが可能だった

民主化農地改革財閥解体により国内市場が活性化した

労働法の整備により労働が民主化された(中略)

・1950年代から60年代にかけて新しい地下資源が次々に発見されたため、石油、石炭、鉄鉱石など、当時は値段の安かったエネルギー資源を活用することができた

・為替ルートが安定し、関税障壁が撤廃され、企業同士が激しい競争を繰り広げ、急激な技術革新、生産規模の拡大、商品流通が促進された

全部で11項目もありますので半分にしておきますが、こういった観点からの日本の現代産業史の分析は、学校教科書などには絶対必要だなと思いました。

「戦後の資本主義全体の経済発展を、日本経済の発展スピードが上回った要因を、当時のアジア諸外国の様相と比較しながら考察せよ」といった論述テーマなら、かなり優秀な高校生でも簡単には書き進められないでしょう。

 

我々日本人としても、こういった偶発性の高い要因を外国からバンバン挙げられるよりも、「世界に冠たる日本企業と労働者」神話にどっぷり漬かっていたほうが気持ちがいい訳で、そのあたり谷本氏、なかなか良い指摘を更に入れています。

読み物としては、「zen」や「SAMURAI」、年功序列、根回しなど、なんとなくミステリアス」なイメージを求める外国の人たちにとっては魅力的です。また、日本の国際的地位や経済力の凋落を認めたくない人たちにとっても、日本の成功を「日本のやり方」に求めることは、気分を高揚させてくれます。

この部分、すごく共感できますね。

この後、

日本は世界の劣等生

「日本はすごい」と報道しているのは、発展途上国ぐらいのものです。

 といった、どう考えても極論としか言いようのない断定を並べてしまうのが谷本氏の突っ込まれやすいというか、反感を買いやすいところなのでしょうが。

 

本書後半は「誰もが自分商店にならざるを得ない時代」「生き残れない仕事のランキング」「ロボットに置き換わる仕事を選んではならない」「付加価値を生むものにお金を使う」といった、どこかで見たような見出しが続きます。内容も大体、既視感のあるものばかりで新味が無いのが残念なところです。

 

思うに谷本氏、本書第2章末尾のコラム「こんなに違う!日本と海外の働き方」のような、軽いタッチの文化論的なブログが得意で、そこから人気に火が点いたかたなんですよね?(すいません、@May_Roma名でのブロガーとしての活動や、ブログ自体を全く知らない上に、調べる気もないので)

日本人の優秀さが発揮されるのは、言われたことや決まっていることを、命令どおりに行う場合です。(中略)多分世界一レベルでしょう。

ところが、臨機応変な対応にはことごとく弱いのです。

これを航空会社のチケットシステムがダウンした際の、イタリアと日本の対応の差の実例を挙げて語っているのですが、ここの部分の筆の冴えは素晴らしい。うんうん、と肯きながら読ませてしまうのですが、最後にいきなり大上段に構えた結論に持って行ってしまうのが本文と共通の難点ですね。

私は面白い部分さえあれば、論理の整合性が不十分でも気にならないのですが、

「おいおい、中抜きが激しすぎるだろう!」

「それは論理が飛躍してないか!」

と困惑するタイプの人がアンチに回ってしまうのではないかと。

編集者が少し軌道修正したものを書かせてあげれば、絶対いいものを仕上げてくるかただと思うのですが。ちょっと勿体ない谷本真由美氏の現状でした。

以上 ふにやんま