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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『槐(エンジュ)』 月村 了衛

読書

『槐(エンジュ)』月村 了衛(2015) 

槐(エンジュ)

槐(エンジュ)

 

 痺れました。

直近のエントリで紹介した同じ作者の『土漠の花』よりも、圧倒的に好みです。Amazonレビューの数で102対14と大差で負けているのは単に売れ数の違いでしょうか?レビュー数と面白さが比例するとは思っていませんので、どうでもいいっちゃいいのですが。

古本の値段も『土漠の花』のほうが遥かにこなれていますので、要は幅広い読者層に購入されたということでしょう。海外派遣された自衛隊が現地の武装民兵に襲われるという設定は、広く興味を惹きますよね。

かたやこちらの『槐(エンジュ)』(以下、読み仮名略)は釣り書きを見ただけで結構引いてしまう、それもドン引きのかたが多いかと。Amazonの紹介文を引用してみましょう。

弓原公一が部長を務める水楢中学校野外活動部は、夏休み恒例のキャンプに出かけた。しかしその夜、キャンプ場は武装した半グレ集団・関帝連合に占拠されてしまう。彼らの狙いは場内のどこかに隠された四十億円---振り込め詐欺で騙し取ったものだ。関帝連合内部の派閥争いもあり、現金回収を急ぐリーダー・溝淵はキャンプ場の宿泊客を皆殺しにし、公一たちは囚われの身に...。そのとき、何者かが関帝連合に逆襲を始めた!圧倒的不利な状況で、罪なき少年少女は生き残ることができるのか!?

引いたでしょ?今、いろんな意味で引きましたよね?

①あ、俺(私)こういうバイオレンス系ダメ!

②なんだこの設定、マンガかよ!

のいずれかじゃないでしょうか。①②両方というかたは少なくて、どちらか一方に分かれると思うのですが如何でしょう。

 

確かにバイオレンス系です。

活字バイオレンスは好き嫌いがハッキリ出ますから、苦手なかたにはお薦めしません。ガイドラインとしては、誉田哲也氏の『姫川玲子』シリーズだけでなく『ジウ』シリーズまで大丈夫なかたですかね。ちょっと作風似てますし。

ジウ〈1〉―警視庁特殊犯捜査係 (中公文庫)

ジウ〈1〉―警視庁特殊犯捜査係 (中公文庫)

 

おそらく本書で一番たくさん人が死ぬと思われる、キャンプ場の大量虐殺シーンの描写はカットされていますし、ウエットな(情緒的なではなくて物理的なウエット)ゴアシーンは殆ど無いのですが。

これはネタバレにならないと思うので描きますけど、女子中学生が半グレ集団に乱暴されるといったこともありません。

酷薄で頭のキレるリーダーの統制が、異常に効いた集団という設定のため、暴力描写は基本的にドライです。淡々と人が死んでいきます。

 

私も強者が弱者を陰惨に痛ぶるシーンを、ネチネチと書きこまれると生理的に受け付けないタイプです。ゾンビ映画が大好きで、ゴアシーンは屁でもないのですが呪怨とか設定を聞いただけで✖️。母子のDV怨霊、もう絶対✖️。絶対観ずに生涯を終えようと決めております。

カマトトぶっても一文の得にもならないおじさんですが、本当に駄目なものは駄目なので。道徳面とは全く関係ありません。大石 圭氏とか好きですし。

ほぼ全てを読んだ中島らも氏の著作でも『酒気帯び車椅子』だけは読んでおりません。冒頭、主人公の奥さんと娘さんが暴力団にひどい目にあわされるでしょう?

酒気帯び車椅子

酒気帯び車椅子

 

中島らも氏もエッセイで書いておられました。後半のカタルシスにつなげる為にはこの暴力シーンが重要で、しっかり書き込まねばならないと分かってはいるものの、書くのが嫌で嫌でたまらなかったと。それで家庭が暴力で破壊されるまでの、平和な団欒シーンをついつい長く書きすぎてしまったと。蕎麦打ちのシーンとか不必要に長いのはその為だと。

分かりますよ、らもさん。

現実に辛いことが多いのに、何故フィクションまで辛いことを書かねばならないのか?中島らも氏はそういう心根の優しいタイプのかたでした。会った事ないですが。

 

脱線長すぎ。

『槐』に戻ります。①は私好みのドライなバイオレンス系なので大丈夫だと。格闘シーンあり、半グレ集団から中学生の機智でなんとか逃れようとするハラハラドキドキの攻防ありと、月村氏の物語はここでもスピード感に溢れていて、読者を休ませてくれません。格闘シーンについてはとても書きたいことがあるのですが、明白なネタバレになるので控えておきます。あなたはきっと胸を打たれます。←ちょっと言い過ぎたかな。

あとは『土漠の花』もそうでしたが、アクションものの王道に沿って、シーンの転換がとにかく早い。しかも多い。湖畔や岸壁、森林に屋内とバリエーションも豊富で、ジェットコースタームービーみたいな感じです。

 

で、②ですが。

本物のエンターテインメントの迫力は「無茶な設定」の違和感を凌駕する。

今、おじさん大事なこと言いましたよ。

粗筋だけ見ると荒唐無稽でも、いざ読み始めれば頁をめくる手を止めさせないのがプロの仕事。その点『槐』は本物のエンターテインメントの資格を十分に満たしています。

 

もう細かいことはいい!

とにかく俺にこの物語を最後まで読ませてくれ!

そこまで読者を夢中にさせてこそ、本物のエンターテインメント。

たっぷり楽しませて貰った後ですから、多少紋切り型のラストにも余裕の笑みです。

 

そうそう、本物のエンターテインメントの条件、もう一つありました。

それは、

続編が読みたくなること。

月村先生、是非書いてくださーい。もっと読みたいよー。

 

以上 ふにやんま