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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『いいデザイナーは、見ためのよさから考えない』 有馬トモユキ

『いいデザイナーは、見ためのよさから考えない』

有馬トモユキ(2015) 

 

いいデザイナーは、見ためのよさから考えない (星海社新書)

いいデザイナーは、見ためのよさから考えない (星海社新書)

 

 

いいタイトルですよね。タイトルに惹かれて思わず買ってしまいました。著者は1985年生まれ、まだ30歳そこそこの新進気鋭のデザイナーです。若さが眩しいぜっ。

主な仕事として「ハヤカワSFシリーズJコレクション」装丁デザイン、TVアニメ『アルドノア・ゼロ』アートワーク等、とあります。どちらも本書で初めて抜粋を見ましたが、これはマニアにはたまらんだろうなという完成度の高さを感じました。

・シンプルにすること

・わかりやすくすること

・使いやすくすること

仕事のコツは、デザインから学べます。

ー背表紙からー 

そう言われるとデザインとビジネスって似てるかも?共通のロジックで語れる?と思ってしまいます。うまい掴み。

・デザインは「かたち」=「見ため」だけではないということ

・デザインという考え方は、誰にでも活用できるということ

ー「はじめに」からー 

ふむふむ。ファッションデザインとかアートデザインではなくて、インダストリアルデザインというやつの発想ですね。

 

続いて目次。

Chapter1 デザインは考えるための道具

Chapter2 シンプルを求めるのに、才能は要らない

Chapter3 あなたのプレゼンはなぜ複雑なのか

Chapter4 デザインを分解する

Chapter5 これからのデザイン

この5章それぞれのタイトルの無駄のなさと、簡潔明瞭な構成に、ビジネスパーソンならば快感を覚えるはず。

冗長でダラダラした文章と、やたらに長い割には意味不明なプレゼンに、日々会社で飽きるほど接していませんか?それじゃダメじゃん日本企業。

 

一番面白かったのは、第2章「家電のリモコンはなぜ複雑に見えるのか」

シンプルさについて考えるために、まずは身の回りにある複雑なものを例に挙げてみましょう。

ここでは、テレビのリモコンを取り上げます。(中略)

実は、これだけ多くの家庭で使われていながら、リモコンは、驚くほど複雑な装置なのです。

ツールにおける複雑さの指標として、目的のために「どのボタンを押せばいいんだっけ?」と、ぱっとわからないものはすでに複雑だと言えます。

たくさんのボタンが並んでいます。しかし、テレビの操作と言えば、チャンネルと音量の操作が99%を占めると思います。

ですから、確かに、チャンネルの移動と音量のボタンは大きくつくられています。

では、あとのボタンは何のためにあるのでしょうか?

1%の、時々使う機能のために、これだけのボタンが付いているということになります。

確かにうちのリモコンも測ってみたら長さ24cm、ボタンはスライド式の蓋で普段は隠れているものまで入れて56個付いていました。外付HDDの録画再生まで担っているにしても、やっぱりこの数は尋常じゃありません。持ちにくいし。

しかし、リモコンのデザインは変わらないままです。なぜでしょうか?

本当は、家電メーカーのデザイナーだって複雑になっていることはわかっているはずでしょうし、もっとシンプルな形にしたいと思っているはずです。 

僕はこの問題の根源には、人の”慣れ”が関係していると思います。

「ある道具を使い慣れてしまうと、それ以外を触れなくなってしまう」のです。

そして道具を使うための学習コストが高いものは、そこから脱出するコストも高くなるのです。

脳にかかるコストが大きいと、ゆるやかに新しいものを学ぶことをやめてしまうので、道具を切り替えにくくなるのです。

家電を買い替える時、つい同じメーカーの商品を買い続けてしまうのにも、そうした要因があると言います。つまり、テレビのリモコンはユーザーに引き続き使ってもらえるものにしようとした結果、ボタンを減らすことなく、ただ足すことになってしまったのです。

電器屋さんも奇抜なリモコンはお客さんに薦めにくい。メーカー側も自社ユーザーの買い替えだけでなく、他社からの買い替え需要も狙おうとしたら、競合と同じようなボタン配置にせざるを得ない。リモコンのデザインカルテルみたいなものが自ずと出来上がって、どこのメーカーも抜け出せないと。

おそらくメーカーの研究室には、リモコンの試作品が死屍累々、その中には慣れたら素晴らしく使いやすい、シンプルな傑作もあるのでしょう。

自然環境は常に、機能を淘汰していきます。(中略)

しかし人工物は勝手に淘汰されたりはしません。機能が増えればそのまま複雑になります。放っておくと人間は、道具を、より複雑なものへと変えていってしまうのです。

市場原理が働き、機能の淘汰が行われることもありますが、テレビは既に、多くの人にとってインフラであり、成熟しきった市場の中にある製品です。(中略)

そうした生活必需品の近いものには、機能淘汰が発生しにくいのが実際のところです。

これがゲームであれば、より面白く快適に遊べるものを求めて、新規性のあるものや操作性の良いものが次々に生まれてきます。

さらに筆者はiPhoneを例に引いて、デザインでハードウェアをシンプルにする事の可能性を示唆していきますが、そこは省略。

僕は、テレビのリモコンのデザインの現状について肯定的ではありません。

それは、ほとんどの人たちは、本当はそんなに複雑なものを求めていないからです。

本当は、デザイナーや設計者がもっと早い段階で、環境の変化を咀嚼して整理すべきだったのでしょう。とは言え、市場にテレビに代わるもの、外敵がいなかったこともあって、デザインを大きく変えるターニングポイントがないままに、現在の形に留まっているのです。

なるほど。テレビのリモコンによって、デザインと市場性の関係が非常にシンプルで、分かりやすいものになりました。

このリモコンのパート全体が、冒頭の「仕事のコツ」に則ったものになっていることに気付きます。

 

有馬氏なかなかやるな!と思って頂けたところで、気になる文章をチェック。なおここまでを含めても第3章から第5章までの中身には、一切触れておりません。

デザインをシンプルにするとは、物事に秩序を与えるということです。

 「Wii」の一番素晴らしいところは、みんなで遊んでいる姿が楽しそうに見えることでしょう。

ウェブデザインの世界では、「2クリックを1クリックにするのは発明で、1クリックを0クリックにするのは革命である」とよく言います。 

ダイソン社のデザインは、技術的に必要な条件をクリアして、かつ同時に美しくなければならないといいます。長く使われる掃除機は美しく(Good Design で) あるべきだ、(中略)

堅牢で機能・構造的に優れている、かつ美しいという両輪を持つものでないと採用されないというのが、ダイソン社の美意識であろうと思います。

ダイソン社のデザインの思想には、未来のデザイナーの在り方を見ることができます。

先述した、クリエイティブディレクター、アートディレクターとデザイナーがわかれていてはできないデザインと似たように、エンジニアとデザイナーが分かれていては成立しないデザインがあるということです。 

ジョブズは、20代でMacintishの開発プロジェクトを立ち上げたとき、コンピュータのことを「Bicycle for the Mind(知の自転車)」と呼んでいます。

ジョブズは、この世で人間が自力で最も効率的に、遠くまで移動できる道具は自転車であり、そしてコンピュータさえあれば、人間の知性はかなり遠くまで行くことができると考えていました。 

 

筆者は、人類を100年後の未来に運ぶ次の「知の自転車」はデザインだと断言しています。

確かに話題の自動運転にしても、人間と車を最終的にどう繋ぐかというインターフェイスの問題は、デザインの力で解決していかざるを得ないでしょう。

自分の携わる分野の可能性を信じ、その本質を追求しようという1985年生まれの(しつこくてすいません)若者の手による本書。若いってホント素晴らしい。

おじさんには刺激的な一冊でした。

以上 ふにやんま