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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『炎の塔』 The Tower of Flame

読書

『炎の塔』 The Tower of Flame(2015)

五十嵐貴久 

炎の塔

炎の塔

 

注)かすかにネタバレあり。

空前の超弩級パニック小説!

地上450メートルの超高層ビルが大火災に襲われる

崩壊した”安全神話” 襲いかかる炎 逃げ場のない密室

帯の煽りも十分で、エンタメ好きとしてはこれは読まずにはいられません。

21世紀の『タワーリング・インフェルノ』ここに誕生!

ですからね。『タワーリンング』はおろかバックドラフト』も観ていない映画オンチの私ですが、ここは見事に釣られておきました。タイトルもかっこいいし。これ大事。

 

結論:これ面白いです。

地上100階、地下5階、地上高450メートルのファルコンタワーが炎に包まれる。作者は五十嵐貴久氏。これで面白くなければ嘘でしょう。頁をめくる手が止まらないというやつですね。

五十嵐貴久氏は、エンターテインメントをよく分かっている人。存分に楽しませて貰いました。

 

パンデミックものでも災害ものでもそうなのですが、パニック小説の肝要ってありますよね。

①登場人物の配置と個性

人数が多すぎても少なすぎてもダメ。人間関係を深く掘り下げすぎても浅すぎてもダメ。あくまでメインであるパニックの引き立て役としての分を越えないこと。これは主人公を含めたメインキャスト数名も含めてです。人間ドラマは不可欠ですが、度を過ぎてはいけない。ここの匙加減がパニック小説の出来を左右します。

②予兆

人為的なミスや妨害

④予期せぬアクシデント

⑤パニック心理の描写

⑥事態収束へのネタ

推理小説のトリックみたいなもの。絶体絶命の状況から一発逆転を図るネタが大事。合理性と読み手を驚かす新規性が問われるところ。

 

本書はさすがに全てを満遍なく押さえた傑作ですが、特に②がいいです。ヒタヒタと迫る違和感、やがて炎の先触れに気づいた数人が動き出す。ここの描写が丁寧でドキドキします。

ここからタワーの総責任者である丸鷹光二社長による徹底的な事実の否認、つまり③につながっていくのですが、お約束とはいえ読み手にどんどんフラストレーションを溜めていく構成は見事。

様々な要素の介入、即ち④によって悪化していく一方の事態。読み手からすれば「ほーら言わんこっちゃない」「もっと早く動いておけば防げたじゃん」という一種のカタルシスを感じるほど、状況は順調に?絶望的なものになっていきます。

 

物語の伏線として仕方ない面もありますが、①についてはすこし不満ですね。

・チームとしてギンイチの魅力が感じられない

・キャスト描写のバランスが悪い。

たとえばプール管理人と納品業者のやり取りは書き込み過ぎ。誰が考えても重要な役割を果たすことになるに違いない、大量の塩酸に唐突感を出さない為か、納品までの経緯の描写が過剰。ひょっとして後で活躍するキャストなのでは?と誤解してしまうじゃないですか。

逆に昭和の大女優や、母子3人連れなどはいい設定なのにあっさり使い過ぎです。不倫高校教師はそうくるのなら、もっと冒頭でしっかりとキャラ付けして欲しかった。彼の個性が薄いので、クライマックスで感情移入しづらくなったのは否めないかと。

 

⑤は好みの問題ですね。私はこのぐらいの薄味が好きですが。我欲を剥き出しにして、自分だけ助かろうとする人間の醜い姿とか、絶望的な状況下、死を覚悟した人間の見せる錯乱とかの描写は割と抑えめです。パニック描写もあまり凄惨ではありません。その手のドロドロをしっかり描いて欲しいかたには物足りないかも。

 

⑥については十分合格点でしょう。

それをそっちに使うの!

という予想外の驚きもありますし。装丁で無意識に誘導されちゃうんですね。面白いアイデアだと思いました。

何気ない冒頭のシーンが、最後の最後に伏線として回収されるところでは更にダメ押しの

やられた!

もはや快感です。

 

最後にネタバレにならないような、ジンときたセリフを3つ。

火災現場で横から口を出すお偉いさんがいる。火事場じゃなけりゃ何だって言うことを聞くが、ここでは知ったことじゃない。いいか、金沢都知事本人が同意すれば別だが、そうでなけりゃ予定通りだ。消防士は命を区別しない。以上だ。

あの子は命の大切さを誰よりもわかっています。父親を火災現場で亡くしているとか、そんな話ではありません。天性の資質です。消防士として何よりも重要な適性です。他人のために自分を捧げることができる人間なんです。あの子にはそういう心があります。信じていい消防士です。

あんたが降りてきたら、どこでもいいから行きたい店に連れていく

(中略)

おごってあげる。デザートだってつける。下らない話をしよう。馬鹿な男たちの悪口を言って笑おう。帰っておいで。待ってる。あたしたちは友達だ。最後の最後まで一緒にいる。ここから離れない。約束する。あんたを一人にはさせない

光二社長は、もう少しいじって欲しかったところですが。映画化されるとしたら、真っ先に変更されるでしょうね。

 

以上 ふにやんま