ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『「悪いこと」 したら、どうなるの?』 藤井 誠二

『「悪いこと」 したら、どうなるの?』 藤井誠二(2012) 

増補 「悪いこと」したら、どうなるの? (よりみちパン!セ) (よりみちパン!セ 40)

増補 「悪いこと」したら、どうなるの? (よりみちパン!セ) (よりみちパン!セ 40)

 

「中学生以上すべての人の」よりみちパン!セ シリーズ。私には丁度いいレベルでしたが、中学生にはもう少し噛み砕いて説明したほうがいいかな?というぐらいの難度。

犯罪にまつわる少年法と更生制度、少年犯罪被害者の権利についての一冊です。

2008年に理論社から刊行され、その後イースト・プレス社から増補・復刊されています。発行年はポイントですので念頭に。入手される場合は必ず増補版を。

【もくじ】

第1章 子どもでも、死刑になるの?

第2章 「少年法」は、子どもを守ってくれるの?

第3章 少年院ってどんなところ?

第4章 「少年法」が改正されたのは、なぜ?

第5章 犯罪少年の家族は、どうしているの?

第6章 被害にあった人は、ゆるしてくれるの?

 

両論併記の意図はないですが、死刑制度についてのエントリを最近いくつかアップしましたので、今回は少年犯罪の被害者側に焦点を当てた本を。

ある少年院の教官から、個人面接のときに少年に対して、タイミングを見計らってこんな質問をするんだ、と聞いたことがある。(中略)

「被害者の名前はおぼえている?」

「被害者の顔はおぼえている?」

ほとんどの少年がここで答えにつまる、と言う。

なぜなら、事件後の家庭裁判所での審判には、被害者やその家族は、出席できないからだ。通り魔的な事件のときなどは、相手の顔すら、そもそも見ていない。また、被害者やその家族から民事裁判を起こされたとしても、出廷せずにいれば、やはり彼らと顔を合わせることもないし、出院後だって、謝罪に行くことをしなければ、偶然に出会わないかぎりは会うこともない。

それじゃあだめだと、さっきの教官は思っていて、少なくとも被害者の名前をきちんと言えない以上、更生なんてあり得ない、と考えてもいるということだ。

そもそも、少年が犯した罪の犠牲になった被害者や遺族の現在やその心情を伝えていく、ということじたいが、これまでの少年院にはほとんどなかったんです、と、ある少年院の幹部がぼくに語ってくれたことがある。

まず、 ここで茫然としますね。

少年犯罪における審判(裁判ではありません)から保護施設における更生の過程で、制度面に大きな不備がある事が分かります。

家庭裁判所でのこの少年審判廷は、基本的に完全非公開なんだ。

少年のプライバシーの保護と、ほかの人間の存在によって、少年が委縮したり、本当のことを言わないようになることを避けるためだという。

もちろん被害者やその家族が同席することも、いまのところ、原則、ない。

少年が委縮することなく、少年審判の理念である「和やかに」という性質を保持しながら、少年を更生に集中させることが目的だからだ、という。

少年の可塑性を踏まえ、成人とは異なる配慮をすべきだという理念自体は間違っていないと思います。

しかし少年犯罪の内容が「和やか」という言葉から掛け離れた殺伐としたもの、人命に関わるようなものだった場合には、この理念に沿った制度が、被害者側が真実を知る事への厚い壁になるという現実があります。

 

被害者側から見てみましょう。

1996年(少年法改正以前)高校の文化祭で他校の生徒に因縁をつけられ、六人ががりで暴行を加えられて亡くなった武孝和君(当時16歳)の事例です。

お父さんの和光さんは、警察官に「加害者はだれなのか」と尋ねた。すると警察官は、「少年法にもとづき、事件概要や加害者の供述内容などについては知らせることができない」と言う。

ついでご両親は、加害者の送られた家庭裁判所の調査官を訪ねて、事件の詳細について聞き出そうとしたところ、「家裁は事実関係を云々するところではなく、加害少年が生きていくことを考える場。被害者の親御さんの心情を聞くところではない」と言われたという。けっきょく、ここでもなにも知ることができなかった。

少年犯罪の場合、事件化した瞬間から、加害者側の少年の保護・更生に向けた配慮が制度として稼動し始めるのに対し、被害者側への配慮は全くなかった訳です。

加害者のことも事件の内容も「教えられません。」

到底納得がいくものではありません。

和光さんとお母さんのるり子さんは、このままでは息子が殺されたまま、いったいなにがあったのか、いっさいわからないままになるのではないかと、新聞に情報を求める折り込みチラシを入れるなど、独自の行動を起こさざるを得なかった。

そしてそれを知った警察が「超法規的措置」(説明略)として、事件の概要をようやく説明してくれることになったが、武さん夫婦はその内容を聞いて、あらためて驚くことになる。

 

先ほど茫然としたばかりですが、次は唖然とします。

まず加害者Aは、「孝和君は髪を茶色に染めて、見るからにケンカが強そうだったため、やらないと自分が負けるかもしれないと思ってやった。あれはあくまでケンカだ」「相手が倒れたときはびっくりして、あわてて心臓マッサージをした」と供述していたという。

孝和君の身長は165センチでやせ型だ。色白で髪も染めていなかった。まして孝和君は血友病という、出血が止まりにくい病気をもっていたことから、自分からケンカにのぞむのは自殺行為に等しく、考えにくい。また、のちにわかったことだが、Aが心臓マッサージをしていた姿を見た者はだれもいなかった。

ケンカ=偶発的なもので悪質性はない。被害者側にも責任はある。

心臓マッサージ=あくまで過失致死であることの印象付け。「殺すつもりはなかった」「まさかこんなことになるとは」加害少年の改悛の情のアピールにも効果的。

おそらく入れ知恵をした大人がいたのでしょう。被害者側の情報が遮断され、加害者側が一方的に証言する事ができるなら、自分達に有利なシナリオをでっちあげて強弁したほうがいいと。

人命が失われた事件での、狡猾な言い逃れには強い嫌悪感を覚えます。

和光さんは、「息子は一方的に殺されたのに、事実についていっさい知らされない。また加害者はひどい嘘をついているにもかかわらず、被害者が訂正を申し入れたり、本当に事実なのか争うシステムも機会もない。被害者遺族でありながら、私たちは蚊帳の外に置かれている。加害少年の審判の決定後も審判内容を知らされない。Aが審判上、罪を認めたかどうかもわからない」と言う。

やはり制度上の不備が浮き彫りになります。嫌な言葉ですが、これでは権利上、加害者偏重だと言わざるを得ません。

けっきょくAに対する家裁の保護処分(「逆送」はなかったわけだ)は、一年間の中等少年院送致になった。

ただしこれも武さんたちに公式に知らされたことではなく、人づてに聞かされた話に過ぎなかった。

逆送 というのは少年法のもと、殺人事件やそれに準じる悪質な事件に限り、家裁が検察に加害少年を返送して、地方裁判所で成人同様の裁判を受けさせること。

制度としては「原則逆送」とされているものの、その適用率は2001年4月の少年法改正までは、わずか15%程度に過ぎなかったそうです。

なお少年法は2000年の神戸連続殺傷事件への社会的影響もあり、①被害者が死亡 ②加害少年が14歳以上、この2つを満たした場合は原則的に全て逆送、と改正されました。年齢の下限も16歳から14歳に引き下げられています。

 

しかし長年の慣習を法律で一気に変えることはやはり難しいようで、

改正後の現在でも、すべてが逆送されているわけではないのが現実だ。

これは以下のような改正少年法の条文に起因するものと思われます。

④検察官送致/十四歳以上の犯罪少年について、調査の結果、刑事処分相当と認められるときは、事件を検察官に逆送しなくてはならない。

⑤原則検察官送致/故意の犯罪により被害者を死亡させた事件の場合、十六歳以上の少年については、原則として、検察官に逆送しなければならない。

 ※赤字は本ブログ上のもの

いずれも例外を許容する形になっており、改正以前の少年法の、

「調査の結果、その罪質及び情状に照して刑事処分を相当と認めるときは」という文章が拡大運用され、犯罪少年の九十九パーセント以上が逆送されないというおかしなことになっていたわけです。

という悪弊(事実の正確な検証がなされないという意味で)を引きずる余地を残してしまった格好ですね。

 

しかも50年ぶりに少年法が改正されたとは言え、

家裁審判廷への被害者の出席は認められない。

損害賠償金の請求に関しては、民事であるために「支払い命令書」の発行以上の強制力を国家が発揮してくれない。

といった問題は放置されたままです。

特に補償面は悲惨で、

多額の損害賠償請求から逃れるため、あわてて土地家屋などの財産を親戚名義に書き換えてしまい、「支払い能力がありません」とみずから訴える親もいる。あらかじめ自己破産の準備をする親もいる。

数十年にわたる賠償はやはり途中で、それも最初の数年で途絶えてしまうケースが多い。逃げて、姿をくらましてしまったりするのだ。少年も親も行方知れずという例もかなりある(以下略)

「この親にして」と蔑むのは簡単ですが、加害者側の家族も破綻(金銭面だけでなく)するケースが多い事は考慮すべきでしょう。

「全ての親戚から縁を切られる」といった事はごく当たり前に発生するそうです。地元を追われ、人の噂やマスコミの取材等で、転居を繰り返さざるを得ない状況に追い込まれる割合も高いとか。

 

【まとめ】

制度、運用ともにまだまだ修正が必要だと思われる少年法ですが、前述の武さんご夫妻が「少年犯罪被害当事者の会」として、1998年に法務大臣に提出された要望書から、被害者側遺族の切実な思いを伺い知ることが出来るかと。

加害少年の付添人として弁護人と両親が審判の席につく現行の制度の下、保身のために事実が覆い隠される傾向に拍車がかかっています。しかし私たちは、事実認定をより正しく行うことは、なんら少年の健全育成を阻害するものではないと考えます。 

私たちが少年法の改正を求めるのは、真の意味での「少年の健全な育成」を具現化し、私たちの子供が味わったような悲劇を繰り返さないようにするためです。

つまり私たちは、少年に罪の意識をしっかり認識させ、自分の罪の深さを正しく認めて反省をすることによって、初めて少年の健全な育成はスタートすると思っています。

法律にはど素人の私がこうしたエントリを上げるのも気が引けますが、法改正から15年が経っての現状把握も含め、いずれまたテーマにしたいと考えています。

 

以上 ふにやんま