ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『砂の王宮』 楡 周平 本気出してないので60点

『砂の王宮』 楡 周平(2015) 

砂の王宮

砂の王宮

 

楡周平氏、好きです。

『マリア・プロジェクト』で ”ほほう”(海原雄山か!)と思い、『朝倉恭介』シリーズ全6冊一気読みで完全にファンになりました。『レイク・クローバー』も佳作だと思います。

いずれも既に文庫化されていますので、未読のかたにはお薦めです。

マリア・プロジェクト (角川文庫)

マリア・プロジェクト (角川文庫)

 

 

Cの福音 (角川文庫)

Cの福音 (角川文庫)

 

 

レイク・クローバー(上) (講談社文庫)

レイク・クローバー(上) (講談社文庫)

 

楡周平氏のファンのかたならばお気づきかと思いますが、氏の代表作とされて然るべき、いくつかの著作が洩れていますよね。そう、何を隠そう私、

楡周平氏のビジネス小説は好きではありません。

 

元々警察小説とか企業小説とか呼ばれる本はあまり好きではないのですが、エンターテインメントとして上質であれば、ジャンルで選り好みはしていないつもりです。

最近だと貫井徳郎氏の『慟哭』とかやっぱり面白かったです(警察小説じゃない?)

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

 

かの池井戸潤氏が「文学性が足りない」という訳の分からない理由で直木賞を取れずにいる事も、氏はむしろ誇っていいと思っています。

池井戸氏の企業小説、滅茶苦茶 面白いじゃないですか。「バブル組」だけでなく『空飛ぶタイヤ』とか『鉄の骨』とか。

エンターテインメントとして多くの人を楽しませている事実ほど、作家にとって価値あるものはないでしょう。

 

話を『砂の王宮』に戻します。

和僑(2015)とほぼ同時期の刊行なので、氏の最新作と言って差支えないであろう本作。ファンとして激賞したいのはやまやまなのですが、そう出来ないのが残念です。

知名度の高いダイエー創業者 中内功を、安直に題材に据えた小説としか言いようがないので。

 

フィクションであれノンフィクションであれ、中内功を題材にするならば、佐野眞一『カリスマ』の枠を何らかの形で超えないと意味がないと思います。

週刊朝日」で味噌をつけた佐野氏ですが、『カリスマ』は氏の経歴でも出色のノンフィクション。孫正義を扱って話題になった『あんぽん』なんかに比べても、はるかに出来がいい。 

完本 カリスマ―中内功とダイエーの「戦後」〈上〉 (ちくま文庫)

完本 カリスマ―中内功とダイエーの「戦後」〈上〉 (ちくま文庫)

 

楡周平氏も『砂の王宮』参考文献の筆頭に佐野眞一『カリスマ』を挙げていますが、この傑作と違った切り口で中内功を書くことは、相当難しいでしょう。

楡氏もアレンジは色々施していますが、結局『カリスマ』の範疇から一歩も抜け出せていない。

盗作云々といった意味では全くなくて、中内功ダイエーへの新解釈が無いんですね。裏を返せば、そのぐらい『カリスマ』の密度が高いということの証明なのですが。司馬遼太郎のあとの坂本龍馬ものみたいな感じです。

 

連載誌「小説すばる」の性格上、専門的な用語や描写は抑えて、スーパーマーケット業態が戦後の黎明期から勃興してきた過程を、上手く描いた小説であることは認めます。

時代背景や消費者ニーズの変化、それに合わせた小売業の変遷の本質をキチンと捉えていますので、「日本スーパーマーケットの歴史入門」として使えるほどです。

 

ダイエー以外の小売業のエッセンスの導入が多く、史実とフィクションとの混乱を生じさせ易い。

スーパーマーケット業界への解釈が全て現在視点なので、相棒「フカシン」の未来予測に違和感ありまくり。「当時、そんな事まで予想してた奴がいる訳ないだろう!」と突っ込むのに途中で疲労困憊。

といった細かくない難はありますが、トータルではさすが楡周平

米国コダック出身ということで、日本のスーパーマーケット事情にそこまで通じていたとは思えませんが、ビジネスの世界となるとさすがの理解力を示しますね。センス抜群です。

 

ただ、このセンス抜群が曲者で、

楡周平、チャチャッと書いたな

という感じがどうしても拭えない。

「流通王」中内功とキチンと向き合って書いた、という匂いが全くしない。これはマズいでしょう。

どうしても採点が辛くなってしまいます。それで60点。

 

長くなりますので別の機会に譲りますが、中内功ダイエーは素材として超一級です。戦後日本の消費社会のありようを映す鏡だと言ってもいい。

『カリスマ』はフィリピン、ルソン島から奇跡の生還を果たした中内功の、心の深淵にまで迫った鬼気迫るノンフィクションです。この切り口では質的に拮抗することすら難しいでしょう。

私案ですがイケるとしたら、ひとつは日本マクドナルド創業者、藤田田との対比を描くこと。

公的には商社経由でダイエーに持ち込まれたマクドナルド日本FCの権利を、「商売やったらワシのほうが上手い」中内功のほうから蹴ったことになっていますが、これは中内流の負け惜しみだと睨んでいます。

藤田田にしてやられたのでは?    

完全に憶測ですが、テナントの目玉としても使えるマクドナルド、ダイエーとしてはかなり欲しかったのではないかと。

最終的に藤田田が米国のマクドナルド本社との交渉に成功し、日本マクドナルドを創業。

中内功は対抗心を剥き出しにするかのようにドムドムやウエンディーズバーガーを展開した訳ですが、そもそも最初に何があったのか。最後までダイエー店舗へのマクドナルド出店を拒み続けた中内功が拘泥した「何か」を知りたい。誰か書いて!

 

もうひとつは小売業ダイエーが90年代に盛んに行ったチャレンジの検証。

覚えているかたは少ないでしょうが、ダイエーは低価格業態の「ハイパーマート」「トポス」だけでなく、会員制ホールセールクラブの「Kou's(コウズ)」まで展開していました。

結局どれひとつとして当たらず、小売業ダイエーは大きく傾いていった訳ですが、こういったチャレンジの客観的な検証、正当な評価がなされていないと思います。誰得なのは置いといて。

ダイエーの新業態は全部ダメだったというイメージが、後付けで貼り付いたままの現状は、中内功に興味のある者としてはとても悲しい。

後年のイトーヨーカドーコストコの動向を見るにつけ「ダイエーが先にやっていたことなのに・・・」という思いが捨てきれません。

 

個人的願望はこれぐらいにしておきますが、楡周平氏ぐらいの筆力のある作家であれば、『砂の王宮』はやっぱり物足りないですよ、というお話でした。

全力の楡周平が見たい。

カモン!周平!

 

以上 ふにやんま