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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『アンチヘイト・ダイアローグ』 中沢けい

読書

『アンチヘイト・ダイアローグ』 中沢けい(2015) 

アンチヘイト・ダイアローグ

アンチヘイト・ダイアローグ

 

作家の中沢けい氏が、中島京子(作家)、平野啓一郎(作家)、星野智幸(作家)、中野晃一(政治学者)、明戸隆浩(社会学者)、向山英彦(エコノミスト)、上瀧浩子(弁護士)、泥憲和(市民運動家) の8人と、ヘイトスピーチを基軸に日本の民主主義、憲法、政治の現状について語り合った対談集です。

折しも与野党一致でヘイトスピーチ対策法案が成立したばかり。

言論の自由との兼ね合いについて危惧すべき面はありますが、人権侵害が明白な、純然たるヘイトスピーチ(語感が変ですね)には社会的にNOが突き付けられた訳です。さすがに常識ある大人の中に、あれに賛成だというかたはいないでしょう。

 

なので本書には、

アンチヘイト大いに結構

作家として勇気ある態度

といった讃辞が贈られて然るべきなのですが、ところがどっこい。

砂出しが十分でないアサリを食べているようで、読みながらやたらとジャリッときます。

妙に脇が甘いと言うか、それはないでしょう!という部分が目立つのでした。とほほ。

 

中島 さっき、戦前を通り越して戦中じゃないかと言いましたが、言葉の定義としては、「戦前」は一般に「真珠湾攻撃以前」を指すことになっているので、「戦前」でも間違いじゃないです。

ただ、この言葉は一見、戦争の始まる前と後を分けているように感じられるけど、そうではないですよね。その前に日中戦争は始まってずんずん進んでいた。いまの状況は、太平洋戦争は始まっていないけれども確実に戦時下だった、日中戦争下の状況に近いと思います。

意味が分からない。

実際に自国の軍隊が戦闘行為を行っている状況と、現在を比較して近いと言うのは違和感があり過ぎ。いくら何でも極論過ぎる。

そもそも「戦中じゃないか」という発言からして、飛躍以外のなにものでもない。

現状認識がおかしいというのは議論全体の信頼性を損ないますから、もう少し表現には配慮をして貰いたいところ。

ましてや、この発言の主である中島京子氏は作家です。

中島 安保法制の審議や、憲法改正をまず「お試し」でやりましょう、しかも、戦争が起こったら政府が国民の人権を制限できる「緊急事態条項」の制定からやりますなんて言っている政府を見ていると、うわ、こりゃあもう戦時下だわ、と思ってしまいます。

あなたが戦時下だと思うのは勝手ですが、居酒屋談義じゃないんだから。

私的な感情の域を越えた、論理的な物の言い方というのがあるでしょう。新聞の投書欄のほうがまだマシです。

あまりに発想も表現も短絡的過ぎて、脱力してしまいます。

センシティブなテーマについて議論しているのに、「こういう物の言い方をすると、揚げ足を取られかねない」という意識はないんでしょうか。

この人、対談相手に選んだの誰だよ? と言いたくもなります。

 

ホストの中沢氏も結構やらかしてます。珍しいお名前の泥(どろ)氏との対談から。

発言の途中からだと意味が取りにくいので、前段の引用が長くなります。お許し下さい。

泥 憲法上明記されていない役所はたくさんありますからね。文部科学省厚生労働省憲法には出てこない。警察も憲法上は何も記されていない。でもきちんと機能している。じゃあ、どうして諸外国は憲法に軍隊のことを明記するのかといえば、明記しなければ司法が二本立てになってしまうからです。 

軍隊であれば、軍隊司法のもとで軍法会議を置いて、一般刑法とはまったく異なった体系の法を持つことになる。それを法制的に正当化するには、軍隊の存在を憲法上、他の役所とは別個のものとして置かなくてはならない。軍法会議がなぜ必要かといえば、端的に言えば、侵略をするためですね。軍法会議は、外国に攻めていくための装置のひとつです。日本はそれをするつもりがないのなら、憲法に明記する必要はないんです。一般行政機関としての位置づけで、十分だと思います。

少なくとも、この発言には筋が通っています。筋が通っているというのは、議論になる、議論の俎上に乗せるに値するということ。

それに対する中沢氏の答えがこれです。

中沢 軍法会議なしで集団的自衛権を発動したら、海外に自衛隊を出して武力を行使したときに、日本に帰ってみんな殺人罪で捕まってしまったりして。

そんな訳あるかい!


申し訳ございません。

もう、私が代わりに謝っておきます。

何を言っているんでしょうか。

おそらくご自身の発言の意味するところを、分かってらっしゃらないと思います。

百歩譲って冗談だとしても、性質が悪過ぎます。全然笑えない。

 

泥 それはないでしょうけれど(笑)。イラク戦争のときは刑法の特例を適用するかたちで話がついたんだそうですね。警察官がもし間違って射殺しても、殺人罪には問われないじゃないですか。それと同じようなかたちにして、司法警察官と同じような扱いにしたわけです。

ゲストも困っております。(笑)は多分(苦笑)ですね。

真っ当な議論に慌てて戻そうとしているのがありあり。白熱した議論は構いませんが、ゲストにこういう余計な気を遣わせないのがホストの力量というものでは?


要は本書全体のトーンがユルめ。

仲のいいお友達を集めて、順番にお話ししました!みたいな感じ。

テーマが重たいからと言って、四角四面の対談にすべしとは思っていません。

独りよがりな発言に、口の中でジャリッと音を立てられるのが嫌なだけで。

 

なんか文句ばっかりになってきたので、最後は面白かったところを。

作家の平野啓一郎氏の発言。

平野 ツイッターをやっていて痛感するのは、アイロニー、ジョークがもうまったく通じないんですよ。

それはあんたのツイートが難し過ぎるからだって!

誰か教えてあげて。

以上 ふにやんま