ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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(後編)『1985年のクラッシュ・ギャルズ』 柳澤 健

『1985年のクラッシュ・ギャルズ』 柳澤 健(2011)  

1985年のクラッシュ・ギャルズ

1985年のクラッシュ・ギャルズ


【トピック】
①全女スタイルの謎が解けた!
長与千種やっぱりすげー 

後編は②について。
まずは長与千種、レスラー開眼のいきさつから。
翌日 、千種はマネ ージャ ーの松永国松のところに行った 。 「プロレスを辞めたい 」と言うつもりだった 。煙草を吸っていた国松は 、千種が引退を口にする前に 、煙が目にしみて痛いという表情をしながらこう言った 。 
「やっとお前らしくなってきたな 」 「えっ ! ? 」 「お前はそうじゃないと面白くないんだよ 」
すでに国松は 、長与千種の中にプロレスラ ーとしての天性の素質を発見していた 。感情を表現する能力が卓越している千種は 、試合に負けても観客を魅了してしまう 。勝者よりも 、負けた千種の方に観客の目が引きつけられる 。国松が千種にことさらにつらくあたったのは 、心中深く眠っている本物の感情をすべて吐き出させるためだった
申し訳ないのですが、これは作り話か、国松コーチの頭の中で、いつの間にか本当になってしまった事としか思えないですね。
いくら何でも話が綺麗過ぎます。

指導者にも「成功者バイアス」というのがあって、教え子が成功すれば、
あいつには素質があった
俺は初めからそれを見抜いていた
と言い出しがちなもの。

成功するような人間は、初心者の時にも才能の片鱗ぐらいは垣間見せることがあるでしょう。
教え子が成功した場合、過去のそんな記憶の断片が、勝手に増幅するものだと理解しています。
素質というのがなかなか見抜けないものだからこそ、プロ野球のスカウトも苦労しているのでは?

誤解のないように補足しておきますと、この程度の脚色(根拠なし)に目くじらを立てるつもりは毛頭ありません。
良いノンフィクションには、熱量を伴った ''思い入れ'' が不可欠ですので。

同業者に認められるのが本物のプロ
という基準で言えば、長与千種は紛れもなくプロ中のプロです。
アナウンサ ーに向かって「勉強してください」と言い、ファンを教育して女子プロレスを変えてしまったレスラーなど、それまでにひとりもいなかった 。長与千種は巨人軍のONに匹敵する偉大なるプロスポ ーツ選手なのだ、と現在七十八歳の志生野温夫は熱を込めて語る 。
デビル雅美は「長与千種ほどの天才レスラーは男子を含めても今後百年は出てこない」と断言し、松永国松は「プロレスをやるために生まれてきたような子」と形容し、長く全女の広報部長を務めた小川宏は「長与千種はひとりでもプロレスができる。あれほどの選手は他にいない」と絶賛している。
こういった同業者、業界関係者からの賛辞だけでなく、
チコさんに憧れてプロレスラーになった
という選手が如何に多いことか。

男子の技を次々と持ち込んで女子プロレスのファイトスタイルを進化させ、クラッシュのセルフプロデュースをリードした功績だけでも十分に素晴らしいのですが、一番感心したのはやはり観客を意識するセンスですね。
長与千種は会場に着くと 、まず天井を見る 。中心がどこかを確認するためだ 。二階があれば上がってみて 、そこからリングを見たり 、若手が練習する際の受け身の音を聞く 。観客には何が見え 、何が見えないのか 。どんな音が聞こえ 、どんな音が聞こえないのかを確かめるのである 。
女子プロレスの場合、試合会場は常に体育館とは限りません。
公園やスーパーの駐車場、砂浜や野原など様々な環境下でファイトしなければならないのです。

どんなコンディションでも
自分を観客に届かせる

そこへの配慮、意識の高さには唸らされました。さすが長与千種
自分の試合が始まっても 、観客がさほど盛り上がっていないと感じれば 、いきなり場外戦に持ち込む 。投げられて一列目から十列目まで派手に吹っ飛んでいけば 、パイプ椅子はガシャガシャガシャンと凄い音を立てる 。どこかの皮膚が必ず切れて出血するが 、それだけの価値はある 。一瞬でも 「怖い 」 「凄い 」と思わせれば 、観客はもう自分のものだからだ 。
女子プロレスに馴染みがない、そもそもテレビ中継が無いような地方の観客でも湧かせなければならない。その為にはカラダを張ることも厭わない。

強いだけでは、いいプロレスラーではない

それを女子プロレスの歴史で最もよく理解し、体現した存在として長与千種は偉大である。そう思います。

最後に長与千種のシビれる言葉を。
かなり長いので、断片的になるのが残念ですが。
千種は若い選手に繰り返し言った。自分の痛みがお客さんに伝わらなければ、痛いことにならない。自分の苦しみが伝わらなければ、苦しいことにならない。
たとえば試合中に口の中を切った。そうしたら、その血をパッとリングに吐きなさい。白いマットの上に赤い血が落ちれば、お客さんにもはっきりとわかるから。これはあの子の血なんだ。あの子が口の中を切ったんだ。あの子は今、痛いんだ、と。見ているお客さんにも自分の痛みを味わってもらおう。試合の中に入ってきてもらうんだ。自分の技を受けてフラフラになった相手が必死に起き上がってきたら ''こいつは凄いヤツだ!'' と、お客さんと一緒に驚かなくちゃいけない。(後略)
前後編共にお読み頂いたほどのかたなら、ここはグッとシビれましたでしょう?
全文チェックしたくなりましたよね?

やっぱ長与千種カッコいいわ!

以上  ふにやんま