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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『森達也 青木理の反メディア論』 

読書

森達也 青木理の反メディア論』森達也青木理 共著(2016)  

森達也・青木理の反メディア論

森達也・青木理の反メディア論

 

似たもの同士と言うか、あまりに関心領域や解釈が近過ぎる者同士の対談というのは、意外にうまくいかないものだという典型のような本書。

読む前は、かなり楽しみにしていたんですけどね。がっかり、とまではいきませんが。

ちなみに森氏は『死刑』(2008)、青木氏は『絞首刑』(2009)を、ほぼ同時期に上梓。

同様に森氏にはドキュメンタリー映画『A』(1998)『A2』があり、青木氏には『日本の公安警察』(2000)があります。相似性あり過ぎ。

名前を隠すと、どちらの発言か分からないような会話の応酬からは、ドキドキするような飛躍が生まれにくい?

難しいなあ、対談って。

 

勿論このお二人ですので、メディア論としてはレベルの高い内容になっています。

青木 米国務省が2015年1月20日、ジャーナリストとかメディア関係者を集めて会合を開いているんです。(中略)

国務省によれば、アメリカでは2014年に紛争地で「少なくとも60人のジャーナリストが殺されている。その前年には少なくとも73人が亡くなった」そうです。(中略)

この会合の中でケリー国務長官がこんなことを言っているんです。

「紛争地のジャーナリストの危険性を完全に取り除くことはできない。唯一の方法は沈黙することだが、我々は沈黙を放棄、降伏とみなす。(中略)世界は何が起こっているかについて知らなければならない。沈黙は圧政者、虐待者、独裁者に力を与えることになる」。さらに「ジャーナリズムはできるだけ公的機関から独立していなければいけない。(中略)しかし政府にも(ジャーナリストの安全を確保するために)できることがある、我々はそう信じている」(米国務省HPより訳出)

森 とてもまっとうです。

青木 ええ。僕はアメリカがなんでもいいなんて微塵も思わないし、アメリカこそが世界で最も数多く侵略戦や謀略を繰り返してきたのも事実です。(中略)

国務長官が一応はメディアとジャーナリズムの原則論を掲げる懐の深さはある。民主主義社会を支えるメディアとジャーナリズムの原則に対する理解を示そうとはする。

もちろん建前にすぎないのかもしれません。ただ、この彼我の差は溜息が出るほど大きい。

本書の意図するところが最も直截的に表現された部分として、長くなりましたが、引用させて頂きました。

アメリカが何言ってんだ? マッチポンプかよ!とかここは言わずにお願いします。メディア論ですので。


本書のテーマを要約すると、こんな感じでしょうか。

民主主義体制には、権力の監視役としてのメディアの存在が不可欠であるということについての理解が、日本には根本的に不足している。

政府にも、我々を含めた一般市民にも、情けないことに当事者であるメディア自身にも。

 

対談のテーマは多岐に及びます。

新しい本ですので、古館伊知郎氏や岸井成裕氏の降板についても触れられていますね。

・死刑制度

オウム事件

・公安と刑事司法

・拉致と朝鮮半島

・敗戦と沖縄 

・メディアと圧力 etc.

 

森 今現在も僕は自分をジャーナリストだとは思っていない。

といった、へえ、そうなんだ!的な発言もあったりして、やはり気になる本は漏らさずチェックしておくべきだな、とあらためて実感。


読みごたえは十分ですが、お二人の著作を全く知らない方が、入門書として読むにはちょっと不向きかも。

二人の間で所与のものとされている事柄、前提条件が多過ぎて戸惑われると思います。

 

では最後に恒例の、森節(もりぶし)を一発。

森 三年前に戦場写真家のジェームズ・ナクトウェイと話しました。「自分は遺族や被害者の悲しみや絶望を食い物にしているといつも思っている」と彼は言いました。でも同時に、「それでも自分たちは戦場を伝えねばならない。多くの人は知らないのだ。どれほどに戦場が凄惨で残虐なのかを。もし知れば、誰もがもうやめると思うはずだ。でも多くの人は戦場に来ない。だから自分が撮る。撮って知らせる。世界から戦争を終わらせるために」とも言いました。後ろめたさは重要です。遺体の映像を封印して遺族の心情に配慮しましたと本気で思っているなら、あなたはすぐにジャーナリストを辞めなさいと言いたい。「311」にはそんな思いをこめました。あまり説明すべきじゃないですね。まあ公開前には、想定内だけどネットでかなり罵倒されました。遺体を撮って金儲けしているとか鬼畜監督とか。

自称「ジャーナリストじゃない人」のほうが、めちゃめちゃジャーナリストらしいのはどうなんでしょう?

頑張れジャーナリストの皆さん。

 

以上 ふにやんま