ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『アメリカは今日もステロイドを打つ』町山智広

『アメリカは今日もステロイドを打つ』
町山智広(2009)

アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 (集英社文庫)

アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 (集英社文庫)


筆者の町山氏はアメリカ在住の映画評論家。いわゆるポップカルチャー全般を得意とする、なかなか面白いライターです。
その町山氏の著書の中でも、かなり大衆向きな?一冊。

スポーツエッセイとしては結構、本格的な内容で、アメリカのプロスポーツに興味のある方には読み応えがあります。
単行本も含めて、おバカ系の表紙に惑わされないように。
少し古いネタが多いですけど。
マイケル・ビックの闘犬とか。

NFLを始めとするアメリカのメジャースポーツの諸事情について、これだけ生々しく触れた本もなかなか無いと思います。

やはり本書の白眉はタイトルにもなっている、ステロイド絡みの部分。
第1章  強さこそはすべて
All You Need Is To Be Strong
に、本書のエッセンスが詰まっています。
80年代は筋肉の時代だった。大リーグでは、レスラー並みの身体をしたホセ・カンセコマーク・マグワイアがバットを大振りしてバカバカとホームランを打っていた。スクリーンではアーノルド・シュワルツネッガーが、シルベスター・スタローンが筋肉をうならせてアメリカの敵を倒していた。筋肉こそアメリカだった。
アタマ悪そうですね〜、アメリカ。
私は筋量ヒエラルキーと呼んでいますが、マチズモに骨の髄まで毒されているアメリカの恐ろしさ、バカバカしさが本書で学べます(学びでいいのかな?)

ホーガンも、シュワルツネッガーもステロイドをやっていたことを認めた。州知事になったシュワは「努力すれば勝利する。それがアメリカだ」と演説したが、彼がボディービルのチャンピオンになれた理由は努力だけじゃなかったのだ。
アクターである彼等には百歩譲りましょう。シュワちゃんの映画デビューへの、経歴の寄与にもこの際目を瞑ろうじゃないですか。
でも、プロスポーツ選手は違うでしょう。
幻滅はアメリカ全土を覆っている。ホームラン記録を打ち立てたバリー・ボンズも「ステロイドだと知らずに使用したこと」を認めた。ステロイド使用を認めたマリオン・ジョーンズシドニー五輪の陸上で獲得した5つのメダルを剥奪された。カンセコは自分もマグワイアステロイドをやっていたと告白した。
しかし、プロアスリートはステロイド使用者のわずか15%、氷山の一角に過ぎない。残りの85%はベル兄弟のようなアマチュアや学生だという。

アスリートのパフォーマンスアップには、ステロイドが不可欠だという認識(正解なので始末が悪い)よりも、更に危険なのはアメリカ社会に蔓延する筋量ヒエラルキーの方にあると言えます。
そもそもアメリカンコミックのヒーローたちはみんな筋肉モリモリだった。星条旗の前でたくましい胸を張るスーパーマンがアメリカの男の理想として子どもたちに刷り込まれた。そんな男はマンガの世界にしかいないのに。ところがステロイドがそのありえない身体を現実にしてしまった。
デカく、強く、それはアメリカの理想だ。スーパーサイズのハンバーガーとコーラをむさぼり、戦車のようにガソリンを食らうSUVやトラックを好み、ガソリンを求めて戦車や爆撃機で他国に攻め込む。
ドキュメンタリーのタイトルにもなっている、
「ビッガー、ストロンガー、ファスター(もっとデカく、強く、速く!)
という価値観が、安全とは言えない薬物使用への抵抗感を吹き飛ばします。
ステロイドの危険性として一番に挙げられるのは「ロイドレイジ」だ。ステロイドには怒りや憂うつ、自殺衝動を誘発する副作用があるといわれ、(後略)
プロスポーツのスター選手が、殺人や傷害でニュースになるのは珍しくなくなりました。
古くはO・J・シンプソン、最近ではペイトリオッツのTE、アーロン・ヘルナンデスとか。傷害程度では枚挙に暇がありません。衝動的な感情を抑えきれなくなってしまうのでしょう。
アメリカには、息子をバスケットボールの選手にしたいために、成長期の子どもに成長ホルモンを投与する親が実際にいる。もちろん絶対に検査には引っかからない。
ヒト成長ホルモンには、末端肥大症など重篤な副作用の危険があります。
これも立派なドーピング。未成年者が対象ならば、たとえ実子でも犯罪行為とされるべきでしょう。勿論、背景にある貧困を無視する訳にはいきませんが。

本書 第1章には、
◆ハイスクール時代からコーチにステロイドを渡され続け、奨学生としてカレッジベースボール入りしたものの、更に強いステロイドを常用し続けたことで精神を病んでリタイアした若者

◆日本の古いプロレスファンには馴染みの深いクリス・ベノワ(新日時代はペガサス・キッド)の一家心中

など、かなりハードなエピソードも盛り込まれています。

でも第2章からは、デモリッションダービーや、パルクール、ローラーダービーなど、日本人には聞き馴染みのないマイナースポーツも含めて、ディープなアメリカのスポーツ事情が満載です。

映画、音楽に造詣の深い筆者ならではの一冊で、ミッキー・ロークの『レスラー』なんていうシブめのMovieや、ハルク・ホーガンファミリー実録ドラマ『ホーガンは何でも知っている 〜Hogan Knows Best 』(そんなのやってたんだ!)も再三登場。

解説はおまけに、水道橋博士

サブカル感に満ち溢れたこのテイストに、興味を惹かれたかたは是非ご一読を。

アメリカ社会の、おバカで愛すべき一面を楽しむにはうってつけのマイナー本です。

私は大好き。

以上  ふにやんま