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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『記憶破断者』小林泰三

『記憶破断者』小林泰三(2015)

記憶破断者

記憶破断者


警告!
・自分の記憶は数十分しかもたない。思い出せるのは事故があった時より以前のことだけ。
・病名は前向性健忘症。
・思い付いたことは全部このノートに書き込むこと。

以上、冒頭1ページ目からの引用です。
惹き込まれる設定でしょう?

事故以前の記憶しか持たず、新たな記憶は時間が経てば完全に喪失。他人の顔や名前すら綺麗さっぱり思い出せなくなる。
自分へ向けたノートの記述だけが頼りで生きている主人公。

対するは、他人の記憶を思い通りに改竄出来る、”超能力者” にして”殺人鬼 ” の雲英光男。

こいつが極悪非道のゲス野郎で、やたらとキレやすい癖に、頭もキレる。
他人の記憶を操れるということは、ある事ない事全て、その場で信じ込ませることが出来るということで、まさに手に負えないモンスターです。

そんな手強い相手と、ひょんな事から出会って、その超能力が悪用されているのを見抜いてしまった主人公が、自分を不審に感じて接触してくるサイコパスと如何にして戦うか?

武器は策略と、わずかな協力者、そして敵の超能力が通じない特異体質のみ。
しかも特異体質はあくまでも敵に悟られず、隠しておかなければならないという制約付き。
だってバレたらそこを突かれて、一気に不利な状況に追い込まれるのが明らかでしょう?

一種のコンゲーム小説みたいな感じの長編です。

主人公に感情移入すると、
えーと、ここはこういう記憶を植え付けられたはずだから、こう答えなきゃいけないんだっけ?
と、とにかく忙しい。
受け応えに矛盾が無いかどうか、確かめる作業が途中から癖になります。

記憶改竄者と記憶破断者がバッタリ出会うという、かなりご都合主義な設定ではありますが、そこはエンターテインメントの腕の見せ所。
ノートによる現状把握シーンの反芻も含め、テンポよく話を運ぶ工夫をしっかりと施し、読者を醒めさせることがありません。

第2回日本ホラー小説大賞 短編賞受賞の玩具修理者以来の小林氏ですが、順調に腕を上げておられました。

登場人物やシーン転換が少ないので、舞台にすると映えるかも。
胸中のモノローグは、ナレーションで入れれば丁度いいので。

ネタバレ気味になりますが、
最後の1行の斬れ味は堪らないですね〜。
あ、なるほど!
そういう話にしますかと。
油断していたところを、スパーンと斬られました。

ブラックな味付けを忘れませんねえ。
丸く収めてなるものか!
プロ意識(何のプロ?)の固まりのような。

最後の最後まで気の抜けない、サービス精神に溢れた一冊です。

他の小林氏の著作と、登場人物が重なっているそうなので、そちらも読んでみようかと。

以上  ふにやんま