ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『非色』有吉佐和子

Beyond the Silenceのaurora3373さんに教えて頂いた本です(ネームへのIDリンクの貼り方が分からず、スマホなのにスマートじゃなくて申し訳ありません)

ありがとうございます。早速読んでみました。

注)ちなみに『非色』〈ひしよく〉です

非色 (角川文庫)

非色 (角川文庫)

 

兵士と駐在先の住民との結婚による、いわゆる戦後花嫁 war bride を題材にした小説ですが、ほぼ半世紀前の作品ということもあり、描写はかなりキツめ。

新作としてこの内容のまま、今出版が可能なのかどうか疑問に思うほど。

それだけこの時代の差別意識が強かった証拠なのですが。

進駐軍の黒人兵、トーマス・ジャクソン伍長と知り合った笑子は周囲の反対を押し切って日本で結婚、出産。やがてトムは本国に召喚され除隊に。

一度は離婚を覚悟した笑子ですが、身内からの冷たい仕打ちに耐えかね、反発するかのようにトムの招きに応じてニューヨークへ。

しかし母娘を待っていたハーレムでの暮らしは、笑子が期待していたものとは全く違っていた......

 

粗筋はこんな感じなのですが、有吉佐和子氏の描く当時の人種差別のリアリティは容赦なし。

私は南部の人間だけれど、近頃のカラードは悪くなる一方で、ニューヨークだって同じことだと思うのよ。カラードはカラードだわ。ニューヨークには百万からのカラードがいる筈だけど、私は断言してもいいわ。彼らは誰も一人として幸福じゃないわよ。あなたが日本から出ていって、その仲間入りをすることはないわ。アメリカの民主主義は、彼らを奴隷から解放しただけよ。それが良かったか悪かったか誰も分ってはいないのよ。

「ダディ。プエルトリコ人はアメリカ人じゃないの?」

「違うとも。プエルトリコ人はプエルトリコ人だ。あいつらは最低の人間で、アメリカ人じゃあないんだ!」

本書の白眉はやはりトムと笑子の第一子、メアリイ懐妊後から誕生まで、彼女が白人であることを執拗に願うトムの姿でしょう。

生まれたてのメアリイの肌は黒くありませんでした。トムは狂喜します。

My dear mary.

My fair mary.

メアリイ、なんて小さいんだ!

メアリイ、スピシマン(砂金)

可愛いメアリイ、Snow white.

Fair white メアリイ 

笑子、見ろよ、この、碧い眼を!メアリイはブロンドだぜ!

トムがメアリイに向けて語る語彙の悲しさ。肌の色にかけるトムの激しい執着が伝わります。

希望の根拠は下のように、とても頼りなく僅かなものなのですが。

僕のお父さんのお祖父さんはれっきとした白人なんだ。ヘンリイ・ジャクソンといって、ブロンドで眼の碧いアイリッシュだったんだ

そうとも。英国の隣にあるアイルランドがジャクソン家の祖国なんだ。僕を普通のニグロだと思ったら大間違いだぞ

その後、メアリイがどんな容姿に育ったかはネタバレになるので触れずにおきましょう。

ニューヨークに渡った笑子は、アメリカ出自の白人>イタリア人、ユダヤ人などの当時で言う「二等、三等白人」>黒人(アフリカンーアメリカン)>プエルトリコ人という序列の厳格さに驚きます。今とは少し構図が違うのでしょうが。

 

日本では白人も黒人も、みんな一括りにアメリカ人だったのに。

こんなに根強い差別意識があるなんて知らなかった。

陽気で羽振りの良かったトムの姿は、戦争が生んだひとときの夢だったのか!

 

ニューヨークではニグロの英語しか話せない日本人として、職探しにも苦労する笑子。

仕事に疲れ精気を失うトム。

南部から兄一家の元に勝手に押しかけてきて、働きもせずに居座り続けるトムの弟。

増え続ける子供たち。

困窮に拍車がかかる暮らし。

差別と貧困の連鎖が生々しく描かれていくのですが、最後の最後に救われた気持ちになるかたが多いかと。

 

聞き慣れないタイトルの示すところが何なのか。日本の禁色・非色とかけたニュアンスもあるでしょうが、

『非色』= not  colored ではない。

人の価値は色に非ず、だ。

笑子の心境の変化から、私はそう読みました。

タフな内容ですが、決して絶望的ではなく、人の強さに対して前向きなところが有吉作品らしい。

新本ではもう入手出来ないようですが、とても良い本でした。感謝です。

以上   ふにやんま