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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『 クール COOL』脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか

読書

 

クール 脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか

クール 脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか

 

原題は

HOW THE BRAIN'S HIDDEN QUEST FOR COOL DRIVES OUR ECONOMY AND SHAPES OUR WORLD.

意味も文節もよく分かりませんが、邦題とかなり違う感じですよね。

脳科学の分野はエセ科学擬似科学を地でいくトンデモ本が跋扈しているので、

軽めのタイトルは付けにくい。

でも、あまり固過ぎると売れない

というジレンマに陥りがちだとお察ししますが、うまく意訳して時流に乗せたナイスタイトル。

しかもこの本、面白いです。

チラッといってみましょうか?

クールは、スミスが考えていたような特別な承認なのだろうか?脳はその人の社会的イメージ、つまり他人からどう評価されているかを記録し続ける。たいていは意識の外なので本人は気づかないが、脳のこの部分が報酬システムと結びつけば、他人が自分を好ましく見ていると脳が判断したとき、私たちは喜びを感じる。

だとすると、何か製品を見たとき、脳はそれがあなたの社会的イメージをどのくらい高めるか、あるいは損ねるかを計算しているはずだ。経済価値は快楽、あるいは効用から生まれるので、そこに新しい価値、つまり製品の社会的価値が生まれる。私たちはある製品を、主にその社会的価値のために買っているのだろうか? 経済は、「クール」という通貨により動かされているのだろうか?

なかなか惹かれますでしょう?

ちなみに冒頭のスミスはアダム・スミスです。

脚注抜きで350頁ですから結構なボリュームなのですが、カバー領域の広さと濃密さに圧倒されます。この頁数で全然足りていません。

読中、何回も心の中で叫ぶはめに。

その話、もっとしてくれ!と。

ホッブズは勿論、ベンサムやミルの功利主義フロイトの精神構造論、エッジワースやデヴィッド・リカード古典派経済学から、認知神経科学の歩み、はたまたペプシチャレンジエアジョーダンiPodまで。

こういう本を読むと、学際的と言うんですか? 人文科学に社会科学、自然科学といった分類の古臭さを痛感します。

著者のひとり、スティーブン・クウォーツ氏の経歴とか凄いですよ。

カリフォルニア工科大学教授。専門は認知科学、神経経済学、神経哲学。

このぐらいの文理横断的な知識が無いと、今や新たなものは生まれないのでしょうね。

大丈夫か日本。

実際、MPFCの機能が明らかになったことが一因で、人間の脳は基本的に、抽象的な問題解決能力を向上させるために進化してきたという定説がくつがえされた。人間の進化で重要なのは、自分自身と他人の頭と心の状態について考える能力が生じたことだ。この能力のおかげで、私たちは込み入った社会的な取り決めをつくれるようになった。心の理論を使って、社会生活をうまく進めていけるようになったのだ。

こういった興味深いパートが多分に含まれるのですが、本線はあくまで消費論です。

我々の購買行動が如何に社会的圧力を受けているか。

商品は社会的パートナーとしての自分の価値を伝えるシグナルである。

テレビを見ることにより、1950年代終わりの10代の少年たちは、ロックンロール・アイデンティティとはホワイトバックスを履き、ジーンズをロールアップさせ、半そでシャツの上に長そでのシャツの袖を2回まくって着て、細いベルトのバックルを横で締めることだと、すぐに覚えてしまった。テレビは商品の意味を拡大し、ライフスタイルの理解を大衆に広め、人々はティーンエージャーたちがロックンロールのイメージを取り入れたことにすぐに気づいたのだ。

多様なコンシューマリズムが階層的な消費に取って代わっても、クールであるには、少なくとも「反抗するふり」が必要なのだ。

消費者のライフスタイルの急増には、大きな意味がある。つまり、「地位のジレンマ」に対する答えが、「地位集団の多様化」だったのだ。(中略)

さて、革ジャンの話が出たからには、「反逆者のクール」と「反抗的消費」の誕生とのつながりを、ほりさげるときだろう。

全然「チラッと」じゃなくなってきましたね。いつものことですが。

本書の白眉は、これに続く

第7章  反逆者のクール

第8章 ドットコム・クール

の2章です。

メイラーが大量消費文化への反抗として定義していた「クール」は、やがて大量消費文化の主要な「商品」となった。 

反資本主義の批評家(具体名略)のあいだで特に人気がある説は、「反逆者のクールは、取り込みの過程を経て現代のクールになった」というものだ。反逆者のクールは社会秩序に脅威を与えるので、資本家はそれを取り込み、消費すること自体が反抗的に見えるようにした。

もはや文化的階層が存在しないのに反抗本能について言及するのは、これが「反逆者のクール」から「ドットコム・クール」への変化を理解するうえで重要だからだ。特に、クールが反抗のシグナルから因習にとらわれないことへのシグナルへと進化した根底には、反逆が持つ創造的エネルギーがある。 

「情報コストは高いが、価格は高くはない消費財」の問題点は、ひとたび部外者にその隠れシグナルを見つけられると、すぐに取り入れられてしまうというところだ。そのため、ある商品や流行が最高にクールなのは、シグナルがまだ隠されているあいだだ。

などなど鋭い洞察に満ちている上に、プリウスナード&ギークファッションといった最新トレンドまで例に引いて、読者を飽きさせません。

唯一難を挙げるとするならば、「脳はなぜ『かっこいい』を買ってしまうのか」についてはどうもよく分からないということでしょうか。

もともとそんな本じゃありませんからね〜。それは筆者も怒るでしょう。

やはり原題の方が中身にあっているのは仕方のないことでして。

以上  ふにやんま