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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『竜と流木』篠田節子

読書

 

竜と流木

竜と流木

 

ジャンルにとらわれないという常套句を飛び越えて、それこそ何でも書ける作家と言って過言ではない篠田節子氏。

きっと色々調べながら書くのが好きなタイプなのでしょう。

そんな篠田氏の得意分野の一つに、自然科学系のフィクションがあります。

↓  このへんの作品ですね。 

絹の変容 (集英社文庫)

絹の変容 (集英社文庫)

 

 

夏の災厄 (角川文庫)

夏の災厄 (角川文庫)

 

他にも食品の化学汚染をテーマにした

ブラックボックス (朝日文庫)

などもありますが、本書は上の二冊、に近いバイオハザードものです。

太平洋上の小島、ミクロ・タタの淡水の泉に棲む可憐な生き物「ウアブ」

背中の色は砂粒を散らしたような淡いベージュ色だが、潜って側面から眺めると、その腹は赤ん坊の頰のような、オレンジを帯びた半透明のピンクだ。大きくて太い尻尾と小さな後ろ足、短いがちゃんと指の揃っている愛らしい前足。その輪郭は、なんとほ乳類のカワウソそっくりだった。丸い頭部についている真っ黒な目もつぶらで表情があつて、それがイモリ、サンショウウオ、カエルの類とは信じられない。頰の両脇にふわふわと毛が生えているように見えるのもほ乳類めいているが、もちろん毛ではない。エラ飾りだ。

その太って半透明な、ほ乳類を思わせる風貌の生き物は、その動作もまた愛らしいのだ。

首を傾げるような仕草、餌を両手で掴み口に運ぶ姿、しかも夜になると鳴く。 

肺呼吸ではなく、エラ呼吸だというのに、暗い水槽の中でまるで子犬が鼻を鳴らすような声を立てる。

それだけではない。柔らかな体は少しぬるぬるする粘液で包まれているのだが、それがハーブに似た芳香を発する。とにかくどこ一つとっても、非の打ち所のないほど可愛らしく、ペットというよりは家族のようなものだった。

このウアブの棲む楽園のような島、ミクロ・タタの泉が、近隣の島々への飲料水の供給源として開発される事に。

この島にしか棲まないウアブは絶滅の危機に瀕しますが、数キロ離れた島、メガロ・タタの人工池へのお引越しで一件落着。

なんとか新天地でウアブが繁殖を始めて、胸をなで下ろす主人公たち。

しかし、喜びも束の間。

メガロ・タタに忽然と悪魔のような生き物が現れます。

4、50センチのサイズながら獰猛に人を襲い、神経毒で死に至らしめることもある、トカゲに似た有毒生物。

夜行性の上に刃物が効かず、敏捷で捕獲をなかなか許さない。

あの生き物は何なんだ?

新たな捕食者の大量発生か?

ウアブが島の生態系を狂わせたのか?

話は100人が100人とも予想がつく方向に進むのですが、一応ネタバレは控えます。

黒い悪魔の醜悪さについては、これでもかとばかりに執拗に描写されると予めお断りしておきます。

読者の生理的嫌悪感をバシバシ突いてくる為、途中で読めなくなるかたもいるかと。篠田氏、さすがの筆力。

展開としてはこの悪魔の素性追求に始まり、増殖への対峙に尽きるのですが、スピーディで息つく間もなし。

小刻みなヤマ場の連続に、もしや? と思って確認したら、やはり新潟日報静岡新聞の連載小説でした。

面白いものが毎日読めて楽しかったでしょうね〜 両県民さん。羨ましいぞっ!

県紙でも二紙で協力すれば、このレベルの作家さんにも連載を頼めるんだと、新たな発見でした。

我が家の西日本新聞は、今のところ葉室麟氏なので頑張っているほうだとは思いますが。あと、おーい栗之助ちびまる子ちゃんの後釜には荷が重いだろう!全国11紙の読者が我慢してるんだぞ!

話が逸れてますね。しかも大きく。

本書はバイオ系エンターテイメントとして十分に楽しめる作品ですが、途中でこの黒い悪魔に感情移入してしまうところがミソ。私だけかな。

ミステリではないので、後付けの新事実頻出も是として頂けるならば、最後までよく出来た設定になっています。話として収まりがとてもいい。

韻を踏んだタイトルの意味するところは 、

そういうことだったのか!と。

ネタバレ接近中。危ない危ない。

バイオものは、

つまるところ一番悪いのは人間

に落ち着きがちですが、そういったステレオタイプに流されないのが本書の魅力。

同じ生き物としての愛おしさ

この黒い悪魔が徐々に憎めなくなってくるんですね。哀れというか、切ないというか。

同じ生き物じゃん、そりゃ生き延びたいに決まっているよ、仕方ないじゃんと。

最後にはひそかに応援したりして。

◉カバーイラストの情報量が多過ぎる。

もう二度と南の島でぼんやりできない!という表紙綴じ込みのコピーがあまりに陳腐。且つ売らんかな。

この2点に目をつぶれば、幅広いかたにお薦め出来ます。

淡水湖が舞台ということで、少しだけ『レイク・クローバー』を連想させるかな。本書がお気に召したかたならば、こちらも併せてどうぞ。 

レイク・クローバー(上) (講談社文庫)

レイク・クローバー(上) (講談社文庫)

 

以上   ふにやんま