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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『呪文』星野智幸

読書

『呪文』星野智幸(2015)

呪文

呪文

 

覚えていない本 ってありますよね。

「なんだったっけ?この本」

「どんな話だったっけ?」

「そもそも、なんでこの本持ってるんだ?」

みたいな。

作者の名前を見ても、思い出せない。

きっとどこかで書評でも見たんだろうなと、とりあえず読み始める。事前情報なし。本書はそういう読み方がぴったりです。

松保商店街という、順調にさびれつつある商店街が舞台。メキシコ風サンドイッチスタンドを営む、霧生君がどうやら主人公らしい。同じ商店街仲間で、居酒屋店主の切れ者、図領君というのも出てきます。

となると、商店街活性化の話かなと思いますよね。

お客様から見放された商店街が、若者らしい奇想天外なアイデアと、抜群の行動力で奇跡のV字回復!みたいな。

反対ばかりしていた老舗の老夫婦も、冷ややかだった頑固オヤジの組合長も、最後には若者たちと一緒になって大奮闘!みたいな。

もちろんハッピーエンドで、爽やかな読後感を残しつつ大団円!みたいな。

↓ こんな感じ? 

県庁おもてなし課 (角川文庫)

県庁おもてなし課 (角川文庫)

 

 ↓ こんな感じ? 県庁続くな。

県庁の星 (幻冬舎文庫)

県庁の星 (幻冬舎文庫)

 

 全然違いますから。

読者の冒頭での予想を、確実に裏切ります。

「え、なになに?」

「なんだよこの本、どこに行くんだ一体?」

不穏な気配に戸惑い始めたあたりで、忽然と気付きました。

「俺俺」の人じゃん!

↓ 装丁がセンス抜群。広げないと分からないけど。

俺俺

俺俺

 

そりゃひと筋縄ではいかんわな、と一気に納得。

星野智幸氏の作風は、万人受けするとは言い難いようで。『俺俺』Amazonレビューもやはり割れております。

私は好きですけど。

不穏と言いましたが、『俺俺』『呪文』いずれも穏やかならぬ文章による、ただならぬお話。これでは中身がまったく分かりませんね。トホホ。死語かっ。

「ホントに最初から、こんな話にするつもりだったのか?」と突っ込みたくなるぐらい、手元で変化してきます。140km後半の高速スライダーみたいな感じ。今度はたとえが野球かい・・・。

とにかく「うわっ!こんな話だったのかよ!」という驚きが肝心かなめの本なので、中盤以降の粗筋はほとんど書けません。お許しください。

不穏な気配を漂わせた部分を、あえて前後の脈略無くご紹介します。

何で本物の嘘つきの才能がないのに、こんな中途半端なことをして、わざわざ自分を惨めにしてしまうのか?もともとの自分を惨めだと思ってるからだよな。なぜ惨めだと思ってるかというと、もっと重要な人物にならなくては、もっと役に立って使える人材であらねば、趣味でも仕事でもいいから好きなことに打ち込まねば、って焦るのに、いくらがんばっても現実にはそういう人間になれないでいるからだよな。 

だから、こんなんじゃない、自分にだって何事か成し遂げられる、自分がここに生きていることを示す、自分だけのやり方っていうのを、この世に刻みつけることができる、そんな小さな気概があったんだよな。どんなに些細でもいい、人と違う自分らしい影響力を発揮して、見せつけてやる、ってね。一種のハングリー精神っていっていいのかな、それが嘘つきクレーマーの始まりだよね。理不尽な客対応されたときに、思い切ってガツンと言ってやったら、相手があっけなく弱気になって謝ってきたものだから、その後も店員だとか公務員だとかに厳しく言っていると、自分が影響力のあるひとかどの人物である気がしてきて、この間違いだらけのおかしな世の中を直してるように思えてきた。何の取り柄もないと思われてきたこの自分に、世直しの使命と才能があったとは

巧みな長台詞です。

いや、そんなに不穏でもないでしょ? と思われたかたに、前後の脈略を紹介したいっ!でも出来ないっ!

そうだ、この映画に印象が似ています。ネタバレかすり気味。

凶気の桜 [DVD]

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以上 ふにやんま