ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『虹を待つ彼女』逸木 裕

『虹を待つ彼女』逸木 裕(2016) 

虹を待つ彼女

虹を待つ彼女

 

第36回横溝正史ミステリ大賞受賞の、かなり新しい本です。

まず表紙のイラストがいいですね。loundrawさんという売れっ子の作品。

Amazonの小さな画像だと、光の質感や静謐な風景の印象が全く伝わらないのでもどかしい。上の画像でほぼ半分の横長のイラストなので、是非全体図を見て頂きたい。

本を手に取ると、しばらく見惚れてしまうぐらいの美しさ。特に銃を載せたドローンが描かれた裏表紙が秀逸です。ドローンの流体の滑らかさも、こちらを向いた銃口のヒヤリとした感触も。添え物ではなく、中身に五分の勝負を挑んだ力作。

「記憶屋」シリーズや「君の膵臓を食べたい」の装画も、loundrawさんの手によるものなのですね。Twitterを拝見すると、キラキラとした才能が溢れていて眩しいほど。

twitter.com

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

 

表紙がいい本は中身もいい。

なぜなら表紙の評価は、読後の評価に影響され相関するから。持論です。

中身にいきましょう。ミステリ大賞の選評から。

自信を持って推せる作品「虹になるのを待て」に出合えて、大いに喜んでいる。他の候補作を圧倒しての受賞であり、選考は短時間で終わった。(有栖川有栖

「虹になるのを待て」を推そうと考えて選考会にのぞんだ。はじめの投票で「虹~」に票が集まり、大差がついたが、他の作品についても意見が交わされた。(黒川博之)  

「虹になるのを待て」の作者は、面白いエンターテインメント小説の構造をよく知っている(道尾秀介) 

応募時のタイトルは「虹になるのを待て」だったんですね。「虹を待つ彼女」のほうが圧倒的に良いなー。それはさておき、本書のレベルならば、選考委員各位の言うように、新人賞の応募作品としては出色の出来ではないかと。

ただし原稿の時点では、細部の設定や、登場人物たちの行動原理に不自然な箇所が散見された。また、主人公は "頭がいい” はずなのだが、地の文がその設定と呼応しておらず、全体的に平易で幼い。(道尾秀介) 

刊行にあたり加筆修正を行い改題のうえ、ペンネームを変更しました。 

相当いじったと推測されますが、新人賞受賞作が単行本になる前に、大幅な手直しを加えられるのはあたり前のこと。野暮は言わずにおきましょう。

作者はプログラマーということで、情報科学の分野のトピックがたくさん扱われています。人工知能、オンラインゲーム(とドローンの接続による銃撃)、AI 対人間の囲碁対局、高次の学習能力を備えたキャラクターによる恋愛アプリ、その進化形としての死者 AI 再現プロジェクトなどなど。

ボカロではないですが、故人の音声だけでなく、喋り方の癖まで忠実に再現しようとするパートでは、技術的な知見の深さを感じました。こういった地味な内容をエンターテインメントに組み込んで、しっかり読ませる技量は大したもの。

本書は予備知識無しで人に薦められて読んだのですが、ミステリ大賞でオンラインゲーム「リビングデッド・渋谷」のドローン銃撃シーンから始まるため、たいていのかたはそっち系(どんな系統だよ)の話かな?と思うはず。でもバイオレンス系のシーン(実はあまりバイオレンンスでもないのですが)はここぐらいです。止まらない無差別ドローン銃撃殺人!とかにはなりませんのでご注意ください。いらん注意ですね。

脅迫、探偵、誘拐など、ミステリに寄せるためのそれっぽい素材を盛り過ぎて、煩わしい感じも正直受けます。文章に気負いが感じられて、たまに鼻につく事もあります。ですが総評としては、ディテールの新しさとゲーム作家・水野晴の魅力的な人物設定で、全て帳消しにしてお釣りがきます。次作ではジャンルの縛り無しに、思い切ったものを書いてくれるという期待で相殺しましょう。かなり甘い私。

本書が古くて新しいと評されるべきなのは、先に挙げたようなテクノロジー系のトピックを散りばめながら、物語の中心的なストラクチャ(構造)が普遍的なものであるという点が大きいでしょう。

並行して走る二つの純愛の物語。

そう、この本のテーマは純愛。「これが純愛?」と言われそうですが私が認定しました。ところどころで挿入される「断章」がまた切ない。

もうひとつ、まさに現代的で愛に絡んだテーマが本書には仕込まれているのですが、まさにド真ん中のネタバレになってしまうので書けません。

①読後しみじみとloundrawさんの表紙を見返す。

②水野晴の新たなスピンオフが読みたくなる。

このへんがお約束かと。

お子ちゃまには分からない。大人になり過ぎた大人にもたぶん響かない。

エンターテインメントとして存分に楽しませながら、ココロがプルプルッとなる小説。

次回作が本当に楽しみ。

以上 ふにやんま