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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

http://funiyanma.hatenablog.com/  

『虚人のすすめ-無秩序(カオス)を生き抜け-』 康 芳夫

『虚人のすすめ-無秩序(カオス)を生き抜け-』 康 芳夫(2009)

世のなかには変わった人がいるもんだなと。失礼ながら動物園かお化け屋敷か。怖いもの見たさが止められず。魑魅魍魎が跋扈する興行の世界。辣腕の「呼び屋」として鳴らしてきた康 芳夫(こう よしお)氏。 ちなみに氏の容貌も「異形」と称する他ない迫力ですが、それは置きまして。本書の著者紹介から。

東京大学卒業。イベントプロデューサー。在学中から大物ジャズプレーヤーの呼び屋として活躍。モハメド・アリ招聘からネッシーオリバー君など珍奇でセンセーショナルなイベントを仕掛け世を騒がしてきた鬼才である。また、出版では戦後最大の奇書『家畜人ヤプー』をプロデュース。

これだけでも怪しさ満点ですが、アラビア大魔法団」「インディ500マイルレース」「トム・ジョーンズ等の興行開催に加え、モハメド・アリの場合はボクシングの試合だけでなく、後の猪木vsアリ戦でもアリとの個人的なパイプを買われて招聘アドバイザーを務めています。

さらに驚くべきことには、ウガンダのあのアミン大統領と猪木の対戦、しかもレフリーはモハメド・アリという世界が震撼するようなカード(って言うのかな?)を合意・契約・記者会見までこぎつけた男。

冗談みたいな話ですが、この対戦、ウガンダのクーデターが無かったら本当に実現していたはず。アメリカの三大ネットワーク局であるNBCと生中継の契約を締結。東京12チャンネルとは仮契約までいったと本書にあります。猪木もアリも記者会見まで行っていますので、事実無根という事はないでしょう。あなおそろしや。さすが自称

全地球を睥睨するスフィンクス

各イベントにまつわる業界の裏話だけで十分に楽しめますが、これだけの怪人(ショッカーかっ)になると、言葉の端々に光るものがあります。

私の見立てでは、思想家や哲学者になる人間は資質的にたいがいベタな現実感覚や実践力を持ちえないという弱さをカバーするために、ロマンと観念で世界をとらえる術をこの世をしのいでいく至高の武器として仕立てたような人が多いのだ。 

しかし観念だけで世界を作っていくと、そこはある面、壮大なほど滑稽な錯覚が生じる。ドイツ観念主義やそこから派生したマルクス主義のみじめな敗退はそのことを雄弁に物語っている。  

言葉というのは容易に詐術がはかれる格好の道具である。何不自由なく育った裕福なお坊ちゃん先生が安全地帯にいながら、あたかも地獄を経験してきたかのような辛辣な思想を語れてしまう。

前後の文脈が無いので誤解されそうですが、筆者のスタンスはいわゆる反知性主義とはちょっと違います。下の一文が筆者の趣旨をよく表しているかと。

現代人の脆さや虚弱さは、「知本位制」の社会によって我々の存在の成り立ちが知識人のそれのように抽象化してきたことにもよっていること。

要はその自覚が必要だと。知性と深い洞察力を備えたかただと感心させられました。本書の中ではあまり注目されない部分かとは思いますが。

「ボリショイサーカス」「謎の類人猿オリバー君」「ネッシー探検隊」(なんと石原慎太郎隊長)など、ルーツはここにあったのか!という興行の戦後史のような本書。

筆者が怒らせた力道山が、カウンターの上のビール瓶の口を手刀で(いわゆる空手チョップです)叩き割ったり、アリ招聘の為にイスラム教に入信(筆者はその為だけではないとして、ムスリムとしての純粋な信仰心についても語っていますが)したりと、破天荒そのものの一冊。あの梶原一騎氏をすら上回る波乱万丈ぶりに、目が回ります。

宮殿の大統領執務室で会ったアミンは私がこれまで会ったことのない人間であった。人の形をしながらその中に入っているのは何か得体の知れないものなのだ。まるで魔界の住人のようなオーラを巨体から不気味に漂わせている。ブラック・ヒトラー」と称されるカリスマ性がどこから来るものなのか、私はそれなりに納得がいった。

怪人を上回ったのか!魔人。魔人サイドの感想も聞いてみたいところですが。ちなみにこのくだりの続きは、気の弱い方は飛ばされたほうがいいです。念のため。

虚人はタブーを打ち破ってこそ虚人なのだ。毒は虚人にとって甘い蜜であり強烈な陶酔をもたらす麻薬なのだ。 

断崖を野原のように歩く。

クラクラするような一冊のご紹介でした。

なお筆者は79歳で、メルマガもブログも現役のようです。

以上 ふにやんま