ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『1984年のUWF』柳澤健 第25回「バーリ・トゥード」

1984年のUWF柳澤健 第25回「バーリ・トゥード」 

Number(ナンバー)917・918号[雑誌]

Number(ナンバー)917・918号[雑誌]

 

単行本が発売になりまして、早速Kindleで予約購入しました。佐山タイガーの表紙が素敵。そうくるか。

1984年のUWF (文春e-book)

1984年のUWF (文春e-book)

 

この期に及んで『Number』にあわせたエントリに意味があるのか?という疑問も湧きましたが、とりあえず続きを。Kindle版は2月3日配信だそうで、まだ届いておりません。あしからず。

単行本を読んでからでは遅いので、今のうちにあえて本連載への不満(というか要望)を挙げるとするならば、

最大の当事者である、UWF主要選手へのインタビューが全くない。

証言のソースが取りやすいところに限られている。ターザンとか当時の若手クラス、それもUWFの外郭団体みたいなところばかり。

◉これは読者の誰も知らなかったはず!という驚愕レベルの新事実が出てこない。

といったあたりでしょうか。思うに、

①連載開始前から当て込んで、唾をつけていたインタビュー先が土壇場でことごとくポシャった。

けれども連載は既に決まっており、見切り発車せざるを得なかった。

といった複雑な裏事情があるのではないかと。完全に憶測ですけどね。憶測に下線引くなって。

今回のテーマは、タイトルから分かるように「バーリ・トゥード」。

総合格闘技の世界に、UWFが先駆者として多大な影響を与えたというのは柳澤氏の一貫した解釈ですし、私も完全に同意します。UWFが存在したことのまさに歴史的な意義として、こうして取り上げてもらえる事には大いに満足しています。前置きが長くなりました。

今回の主人公である中井祐樹選手は修斗出身で、佐山にとっては直弟子にあたりますから、UWFの本流にごくごく近しい存在。連載が始まるまで、中井祐樹選手の名前すら知らなかった私ですが、今回の内容に興味を惹かれて、いくつか動画を見ました。

こんなのとか。 

Giant slayer!!! Yuki Nakai - 3 fights in 1 night!! (Gets blinded for life) (Vale Tudo Japan) - YouTube

こんなのとか。

閲覧注意!エンセン井上対ジェラルド・ゴルドー 不穏試合 - YouTube 

1995年「バーリ・トゥード・ジャパン95」

この大会で中井選手が生涯背負うことになったダメージは、皆さんご承知の通りです。動画のタイトルを借りれば、

Gets blinded for life

心底お気の毒だと思いますし、感覚器に不可逆的なダメージを与えたゴルドー選手の行為は決して是認できません。バーリ・トゥードのルールを世界中が模索していた、草創期の試合だった事も中井選手にとって大きな不運でした。

ただ、いかに初期の事件とは言え、バーリ・トゥードはやっぱりバーリ・トゥードなんですよね。突き詰めれば命のやり取り。いくら急所への攻撃と目潰しは反則と言っても、そんなのあくまで紳士協定で、土台ムリがあるんじゃないのという話です。危険にさらされ、恐怖に駆られればルールもへったくれも無いのが人間というものでしょう? 中井選手がゴルドー戦で何のアピールもせず、試合を続行したのは始めからその覚悟があったからだと思うんですよね。決して想定していなかった訳ではないと。

ことの本質は、実はゴルドー選手の個人的な資質うんぬんとは無関係です。サミングを仕掛けるという事は、相手がやり返してきても文句を言えない状況に自分を追い込む訳ですよ。本人が意図するせざるに関わらず。ベテランのゴルドー選手が、それを分かっていなかったとは到底思えない。

この試合、ゴルドー選手にはそれだけの自信があったということでしょう。短い動画からは判断しにくいですが、ゴルドー選手、繰り返しサミングしていると見ます。コーナーにガブられて、中井選手の頭を抱え込みながら吊っているシーンでも、死角になった右手で絶対やってますね。決して本連載にあるような、開始30秒だけの話ではない。

何度もやっているほうが、ずっと悪質やんか!

私は逆だと思います。ゴルドー選手は何度も警告した。それを中井選手が再三に渡って無視した。この試合で中井選手が負ったダメージは、その点においてはアクシデントとは呼べない、起こるべくして起こった結果ではないかと。

「私は男らしく堂々と戦いたかったが、彼は私にくっついたまま離れようとはしなかった。私はレフェリーに『この状態をなんとかしろ。さもないと俺はこいつを殺すぞ』と言った。

フラストレーションがたまった私は、ナカイの目に指を入れた。私は負けるのが嫌いだから、リング上ではクレイジーになるんだ。だが、ナカイはタップしなかった」(ジェラルド・ゴルドー

ゴルドー選手と言えば、勝敗についての事前の取り決め(ブックというやつですね)だけは守る、ビジネスにおいてはプロフェッショナルな格闘家のはず。いかに同業者の評判が悪かろうと、理性を失って自分がコントロール出来なくなるタイプだとは思えないんですよね。本人のコメントとはかなり異なりますが、あれは商売用ではないかと疑っております。

中井選手のファンからは怒られそうですが、動画を見た限りで言うと、私の中ではこの試合、ゴルドー選手の判定勝ちですね。

どちらが強いのか? 

明らかにゴルドー選手のほうでしょう。リングを引き上げていく、ゴルドー選手の憮然とした表情が語ってますもん。

お前とは付き合ってらんねーよ!と。

バーリ・トゥードって言ったって日本だろう? いくらブック無しだと言っても、そこまでガチでやるこたぁねえじゃないか。てめぇの自業自得だからな!

「おイタが過ぎる」とまでは言わないでしょうが、ゴルドー選手にしてみればそんな感じの試合だったのではないかと。

勿論、千載一遇のチャンスに全身全霊を懸け、3試合を戦い抜いた中井選手の闘志には最大級の賛辞を送りたい。でも、前途有望な若者が、このバーリ・トゥードの一夜で得たものと失ったものを比べると、その落差に愕然とせざるを得ません。ファイターとして、まだまだ輝かしい未来が待っていたはずの若者だというのに。

だから嫌いなんですよ。バーリ・トゥードなんか。

こんなのエンターテインメントでもなければ、スポーツでも何でもない。公衆の面前で興行として披露してはイカん種類のものです。カネを貰って、本人達は好きでやってるんだからいいじゃないかと言うのなら、アングラでやってください。PPVの世界でも、コンテンツとしては完全に下火なんでしょう? 当然です。

まず、リアルファイトとバーリ・トゥードを混同してはいけないと思うんですよ。マウントとかパウンドとか、さすがの佐山もこの時期はブレましたね。修斗が自ら掲げたスポーツ性から、どんどん遠ざかることに気付かなかった。

どちらが強いかを、バーリ・トゥードで決めなければいけない必然性なんてどこにもないんですから。

もっと刺激が欲しい、もっと残酷なものが見たい。そんな観客の要求に応えていたら、行き着くところは格闘技でも何でもなくなります。聞いてみたらいい。オクタゴンにゴリラと人間でも入れたら満足ですか?って。

右目の視力は、ついに戻らなかった。

片眼を失明した中井祐樹が、選手生活を続けることは到底不可能だった。

まだ24歳だった。

後味が悪いにも程があります。やったもん勝ちを責められないような試合なんて、試合とは呼べませんよね。そんなの野っ原でやってくれって。もう1回言います。

だから嫌いなんですよ。バーリ・トゥードなんか。

※ 直感ですが、動画の2つめはガチをdisguiseしたブックでしょう? こんなのは好き。

以上  ふにやんま