ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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思いのほか当たり『エスカルゴ兄弟』

エスカルゴ兄弟』津原泰水(2016)

エスカルゴ兄弟

エスカルゴ兄弟

 

装幀でとても損をしている本です。おどろおどろしいというか、江戸川乱歩みたいじゃないですか? タイトルと相まって、なんだかグロ系のカテゴリだという誤解を生みやすいはず。そう言う意味での「思いのほか」ですね。

連想しましたもん。こんなのとか。

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

 

こんなのとか。 私だけ?

ムカデ人間2(字幕版)

ムカデ人間2(字幕版)

 

中味は全然違いますから。

どちらかと言うと明るいコメディ系。爽やかと言ってもいいぐらい。なんでこんな意味不明どころか、売上面で確実にマイナスに作用する装幀にしちゃったの?大丈夫か角川書店? 何があったの?

本書はかの国民的グルメ漫画美味しんぼと、青春B級中華グルメ小説(そんなジャンルないって)の傑作『戸村飯店 青春100連発』(瀬尾まいこ 

戸村飯店 青春100連発 (文春文庫)

戸村飯店 青春100連発 (文春文庫)

 

を足して2で割ったようなお話です。かなり褒めてますよ〜。ちなみに『戸村飯店』の装幀は良いなー。こちらもお勧めですぜアニキ。戻れ話。

主人公、柳楽尚登は仏文科卒の若手編集者で、調理師免許を持つ料理好き。このへんで山岡士郎かよっという声が上がりそうですが、心を広く持ちましょうね。いいじゃないの。エンタメだもの。

皆さんおおかたの予想どおり、この尚登クンが社命を受け、本物のエスカルゴを使った料理店の立ち上げに奔走するというお話です。あえて本物というのは、日本のフレンチで使われる安価なエスカルゴは、そのほとんどがアフリカマイマイなんだとか。貝の缶詰の安いのも、よく見ると聞いた事のない貝を使ってますでしょう。あんな感じ。

 美味しんぼならばここでゆう子さん「まあ、私たちは知らないうちに全く違うものを食べさせられていたのね!」と口に両手を当てて驚くところですが、そのへんの薀蓄は抑えめです。

本書のいいところ。

・会話のセンスの良さ

→随所でクスリとさせられます。ナオノコトノボルとか。懇ろとか。しかもテンポ良く読ませるな~と感心しました。

「あ、僕のことも尚登でいいです。尚(なお)のこと登ると書きます」

「ナオノコトノボルってどんな漢字だ?」

「名刺をお渡ししてありますが」

「ねえナオノコトノボル」

「梓さん、それは名前じゃないです」

初対面での名前を巡るやり取りだけでも、実はひと捻り加えてもう一回あります。こんな小ネタがいっぱい。たまりません。

・料理を描く筆力

→この手の本は、読んでいてお腹がすくぐらいでないとダメですよね。作者は料理及び調理をかなり勉強されたと見ました。

・梓ちゃんのキャラクター

→誰それ?というのは置いといて。主人公の想いびと(死語使っちまったよ)であるソフィこと桜さんのキャラがイマイチ立ってないのに比べて、この子の魅力が際立っています。めっちゃチャーミング。お父さんも素敵だけど。

とにかく陰気くさい装幀とは裏腹に、とても良く出来たエンタメ系の一冊です。

夏のPASTIMEに是非。もう少し売れてくれて、別の装幀で文庫化されたら嬉しいなと。

以上  ふにやんま