ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『毒虎シュート夜話』ザ・グレート・カブキ×タイガー戸口 ①

『毒虎シュート夜話』ザ・グレート・カブキ×タイガー戸口(2019)

毒虎シュート夜話 昭和プロレス暗黒対談

毒虎シュート夜話 昭和プロレス暗黒対談

 

「昭和プロレス暗黒対談」という物々しいサブタイトルがついていますが、プロレス的な誇張やギミックはごくごく薄く、昭和プロレスファンにとっては史実的にも価値のある内容になっています。

カブキさんは昔、全日の解説もしてましたしね。常識もあるし頭もキレるプロレスラー(元プロレスラー、とは言いません。プロレスラーは死ぬまでプロレスラーだというのが私の持論。いや願望かな)だと伺っおります。誰にやねん。

プロレスラーはバカじゃできない、利口じゃできない、中途半端じゃ、なおできないんだよ

自負と自虐の入り混じった名台詞に、のっけからしびれます。昭和プロレスの香りが濃厚に漂う一冊。ありがとう徳間書店

まずは日プロ時代の金満エピソードから。

そう、遠藤幸吉なんかは、会社に「選手を乗せるバスを買う」って言って、ベンツのバスを買ったけど、その代金に、自分のベンツの分も一緒に乗っけてた。

酒と女と会社のお金には目がなかったという文脈で、必ず出てくる遠藤幸吉

なぜバスをベンツにしたかというと、支払いの分母を大きくしないと、自分のベンツを紛れ込ませられないからだった、という話だったはず。なんと愛すべき奴なのか、このパッカンパッカン。

お金の話が出たついでに馬場夫人、業界では「元子さん」と呼ばれる女傑について。全日のハワイ社員旅行にて。

戸口  みんな食べて帰るときに、何やったと思う?あの女。みんなでワイワイやっていたら、何が気に食わなかったのか、途中で「正平」って、どなりながら、出口のほうにアゴ振って。要するに「正平、もう行くぞ」ってこと。そしたら2メートルの体が黙ってついていくの。あれには、がっかりした。

カブキ、戸口の二人も本書で「ケチだ」「カラダがデカいくせに異常に細かい」と散々な事を言っておきながら、結局馬場さんの事が好きなんですね。だから衆目の前で馬場さんに敬意を払わない元子夫人が許せない。

以下、馬場さんが元子夫人の実家から、全日設立時に四千万円引っ張ったのがいかんかった、あれでアタマが上がらんようになったんだ、今で言えば億だろみたいな話とか、遠征の飛行機事故で亡くなったハル薗田のお姉さんを無下に追い返したくせに、追悼興行だけはしっかりやった話とか、元子さん批判は続きます。

戸口  高千穂さんは元子さんに良い思い出はないの?

カブキ  ない。

戸口   即答!でも、みんなないよね。世代が違ってもない。

。。。

次行きましょう。二人の得意分野である、レスラーのアメリカ修行について。

アメリカで半年も持たなかったという猪木評。

ビーフェイスでは食えないよ。ベビーフェイスで食えないなら、ヒールに転向したらどうだって言われても、無理。自分がかっこいい事しか猪木さんは考えないから。

「自己愛」に貫かれた、猪木イズムの核心を突いた評価。

カブキ  日本人レスラーは、アメリカに来て、初めてプロレスが何か考えるよね。(中略)うまくプロレスができて、お客さんが入るようになって、上をとっていけば、どんどんギャラが上がっていくんだから。

戸口  だから、客を呼べるように、考えるようになるんですよね。

カブキ  俺はそれが楽しかったよ。(中略)だから、日本のプロレスの方が異質だったよ。お客さんが入ろうが、入るまいがギャラが一緒って。(中略)現地に慣れようとしないし、勉強もしなかったら、脱落するよ。やっぱり「どうお客さんを楽しませるか」そこに尽きるんだから。

全米で通用するヒールとして名を馳せた二人らしい、実にプロフェッショナルな仕事観です。

日本のお客さんはじーっと見てるけど、向こうは10ドルのチケットを買ったら10ドル分楽しむ。それは、お客さんも真剣っていうこと。それを乗せて沸かしていかないといけないの。怒らせて、ブーイングさせたり、「誰があいつをやっつけるんだろう」っていう期待感を持たせなきゃいけない。

アメリカ云々を越えて、プロレスの本質に迫った至言です。拍手。

二人ともピーク時には週に2万ドルくらい稼いでいたそうです。アメリカで売れたら偉いのか?という話もあるものの、「客を呼べる」レスラーが偉いというのは世界共通。マサ斎藤、キラーカーン、グレートムタ。アメリカでやれる奴は日本でもやれる、というのは間違いないところかと。

カブキ  お客さんから「ブーブー」ってブーイングを浴びながら攻めている時に「どこでこいつを返して、客さんを喜ばせるか」って考える。そのベストのタイミングを見極め、会場を「ワ〜」って盛り上げるんですよ。

戸口  それがヒールの技術。

カブキ  それが、できないと稼げない。

「返す」というのはプロレス用語だと「カムバックさせる」、相手を反撃に転じさせることを言います。ちょっと長くなりますが、話は更にヒールの核心に迫ります。

カブキ  フライングメイヤーやって、そのまま首を絞めているのがいるけど、それだけだとダメわけ。そんな時でも、腕を取るとかして、相手を動かさないと。首を絞めて座っているだけでは何も表現ができない。ギューと絞め上げらたら、相手から表情が出るから。こっちがそれを出させてあげる。だから、ヒールって難しいんですよ。(中略)

ヒールが試合の70%を占めてないとダメです。ベビーフェイスなんて、あとの30%で1十分。

さすがザ・グレート・カブキ。語りますね。聞けますね。

カブキ  お客さんの声を聞きながら、肌で感じながら組み立てていく。レフリーと一緒に。だから、歌舞伎、演劇と一緒ですよ。どこで見得を切るかに頭を使う。「今、こういうことをやったら客は怒るだろうか?」に。それで、怒らなければ別なことやればいいの。

ここで出るか歌舞伎!

このワードに全く反応しない戸口のことは置いておきまして、実に素晴らしいヒール論だと思います。

「ベビーフェイスなんてのは立ってりゃいい」

「試合を組み立てるのはヒールの仕事」

カブキ節全開のこのくだり、読まねば損だと断言しましょう。

「ヒールとベビーフェイスの二元論的なプロレス自体が、昭和プロレスの限界を物語っているのではないか?」本稿、かまわず次回に続きます。何故なら今のプロレスを知らないから笑。

昭和プロレスはいく!

 

以上  ふにやんま