ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『毒虎シュート夜話』ザ・グレート・カブキ×タイガー戸口②

『毒虎シュート夜話』ザ・グレート・カブキ×タイガー戸口(2019)

毒虎シュート夜話 昭和プロレス暗黒対談

毒虎シュート夜話 昭和プロレス暗黒対談

 

その②です。

昭和プロレスファンとしては当時の秘話、「今だから言える!」系の話はこたえられません。本書も

◉2代目力道山は決まっていた!

ステロイドはやってたよ途中でやめたけど(戸口)

といったおいしい案件を次々とぶち込んできます。ハアハア。興奮覚めやらず。

サムソン轡田ジャンボ鶴田を巻き込んだ謀反事件

については、最近になって広く(昭和プロレスファンの間だけですが)知られるようになりました。サムソンのWikipediaにも載っていますしね。

ところがてすよ!この話にはなんと衝撃の後日談が。これは知ってる人は少ないはず。自慢できそう。

カブキ  それがきっかけでJ&Bって言う会社が作られ、素子さんが社長で、ジャンボも、そこに押し込まれたわけ。

戸口  そこの重役になったんだ。

カブキ  それで馬場さんに頭も上がらないし、がっちりと固められて。あのあと、選手との交際を一切持てなくされた。

戸口  それビックリしたんですよ。全日本に上がるようになって、地方行くと、馬場さんが出かける時、「おい鶴田!」って、どこにでも必ず連れて行くから。

カブキ  試合のあと、ジャンボを絶対に他の選手と一緒にさせなかったの。密談されて、別の派閥を作られると困るから。

カブキ  ホテルの中で馬場さんと元子さんが夕食を食べる時は、外にも出してもらえなかったの。ジャンボは付き人の菊池とホテルの部屋で二人っきりで、菊池に2000円渡して「弁当買って来い」って。それで夕飯済ませていた。

ジャンボ鶴田がお酒が飲めなかったというのは広く知られた話で、それはプロレスラーにとっては大きなハンデだろう、天龍みたいに大勢で大酒飲むのが大好きならば、自然と「天龍派閥」みたいな形がレスラー間で生まれるのにな、とは思っておりました。おりましたが、ジャンボが他のレスラーとの交際が禁じられていたと言うのは初耳でした。

もちろんジャンボの性格的な面はあるでしょうが、生涯「鶴田派」的なグループを作る事がなかったのは、ここに大きな原因があったということですね。

サムソン轡田の謀反がなければ、ジャンボの人生は変わっていたかもしれない。「日本人レスラー最強説」に包まれたジャンボのレスラーとしての経歴と、それに釣り合わない非業の最期を思うと切ないものがあります。

しかしながら、カブキ・戸口コンビのジャンボ評はなかなか厳しい。

カブキ  プロレスも人間性が出るよね。だから、鶴田、あいつはプロレスをナメていた。

カブキ  練習はしないし、何より態度がナメていた。いつも「こんなもんでいいだろう」って感じで。第二の人生のためにお金を貯めておこうみたいな。

戸口  鶴田は、お金遣わない。ラーメンばかり食べて。札幌に行くと、すぐ味噌ラーメン食べに行って。それで重いバーベルとか上げないから、カラダがベタッとしていて見栄えが悪くて。馬場さんも稽古しろと言わないから。

カブキ  言わないよ。自分がしないから。

鶴田、散々な言われよう。お酒が飲めないということは、宴席も楽しくはなかったはず。ラーメンくらい食べさせてあげて。お願いだから。

結局「漢気」というか「親分肌」というか、アクの強いレスラー達の間では評価されにくいタイプだったんでしょうね。

もしかしたら「こんなもんでいいだろう」というのも本人にしたら迷惑な話だったかも知れず。ある意味、「こんなもん」でやれてしまう鶴田の能力の高さの裏返しといいますか。

同業のレスラーから見ても、鶴田にはある種のもどかしさというか、「こいつはもっとやれるはず」「もったいない」という気持ちがつきまとう存在だったのかなと思いますね。読みようによっては、「ジャンボ最強説」の貴重な傍証とも言える。練習嫌いであのパワーとスタミナですからね。鶴田恐るべし。

最後に全日のレスラーから見た新日本スタイルについて。まあお互い様なのでしょうが、辛口です。

戸口  新日本は猪木さんの悪いとこばっかりとっているからね。要するに攻防がないんだよ。どっちかが一方的に、バカーン、バカーンって行って、行ったほうが最後、やられちゃう?それで勝ったほうが「それが強さだ」っていうのが新日のやり方だから。一方通行みたいなやつ。

カブキ  相手いて、戦うんだから、そこに攻防が生まれないと、お客さんエキサイトしないよね。

戸口  馬場さんが初めて長州を見たときに。「忙しいプロレスをしてるな」っていう言い方をしていたらしいけど。「常に、行かなきゃいけない」っていう頭があるから、それしかやってないじゃないの。(中略)

カブキ  前進あるのみだから競馬馬と一緒だよ。

カブキ  新日本は、相手を光らせるという教育がされてなくて。一方的なものが多かったから。攻め、攻め、攻めで。

新日の選手が聞いたらカリカリきそうな物言いですが、まあ当たらずとも遠からず的な指摘ではありますね。健介、中西は硬すぎてダメ(スタイルの話です)、藤原喜明は新日の選手にしては珍しく試合に「俺が、俺が」がない、外道は本当にプロレスがうまいなど、個々の選手評は「なるほど」と頷けるものがあります。

SWS時代の回顧パートでも新日出身の選手(高野兄弟とか荒川とか。確かに駄目そうな面子ですが)にはボロカスですから、相当根が深いものがあるのでしょう。ちなみに、返す刀で全日にも辛口批判はおよびます。

カブキ  俺のいなくなった後の全日本、四天王プロレスとか言われて、頭から落とすようなことやりだして。どうしてあんな風になっちゃったのと思った。

戸口  あれ、ひどいよね。だから「あそこまでやらなきゃお客さん呼ばないのかな」って。でもいつかケガ人が出る。「ケガ人が出ないとわかんないだろうな」って心配だったの。あれ、馬場さんなんか、「僕にはできない」とか褒めていたみたいだけど。

カブキ  そんなこと言ってたの。それで儲けていたのにね。三沢なんか会うたびに、体の様子が悪くなっていた。

戸口  あんなの何年も続けられないよ。経営者も選手のことを考えたら、違う方向を考えないと。

カブキ  そんなの、馬場さん、言わないよ。儲かっているんだから。

王道プロレス」が変な方向に行ってしまって、馬場亡き後に選手達が、その呪縛から逃れられなくなってしまったと嘆いています。

その代表格が、カブキ曰く、天才肌で真面目で人柄も良くて、馬場が本気で養子にしようとしたという三沢選手でしょう。

本書にはありませんが、四天王時代の三沢選手は、試合後の「首抜き」が恒例だったそうですね。試合の激しさと過去のダメージの蓄積で、三沢選手は試合後には首が体に完全に埋まってしまう。そのままだと頭と体の間でいろんなものが詰まる(血流とか神経とか)ので、大柄な整体師さんが三沢選手の首にタオルを巻いて、全力で引っ張る。三沢選手の体を押さえつける役目のレスラーが、引きずられる程だったといいますから、いかに首の埋まり具合が激しいか分かろうというもの。そんな試合を日常的にやっていたら、体がもつはずもなく。

カブキ  ノアがだんだん集客に苦労するようになったのは、試合がああいう風に過激になればなるほど、お客さん引いちゃうから。選手がさらに上のこと、もっと上のことをやろうとすると、お客さん、足が遠のいちゃうの。もっと違うことでカバーしていかないと。見方を変えれば、シュートの団体が潰れていったのと一緒。お客さんのこと、置いてけぼりにしているということではね。

カブキ  じっくり試合が組み立てられる自信がないから、今のレスラーは、お客さんがちょっとでも静かになるのが怖いの。「動け!」と言われるとすぐ泡食っちゃう。

戸口  だから勉強不足。じっくりしたところ見せられない。余裕を持ってやれない。余裕持って、うまく見せられない。そうなると、お客さんが上から目線になり、「動け!」とか言い出す。高千穂さん、コーチやって教えてあげたら?

二人の共通の評価として、武藤はいいと。アメリカンプロレスのいい部分を取り入れて、余裕を持ったプロレスが出来る。楽そうに見えるし、おもしろみがあると。

過激さをアピールしたり、シュートを打ち出したり、ましてや「最強」なんてことを言い出す(猪木格闘王のことですね)のはプロレスが下手な証拠。お客さんをしっかり楽しませて帰らせるプロレスアタマがらあれば、そんな事は不要なんだという二人。

「俺はケニーオメガの試合なんて、カネ出して見ようと思わない」と言い切ってしまう戸口先輩には、様々な批判もあるでしょうが、昭和プロレスファンとしては色々楽しめる一冊でした。

おもしろきかな、昭和プロレス。

以上  ふにやんま。